2020年11月15日号
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artscapeレビュー

須田一政「常景」

2010年03月15日号

会期:2010/02/03~2010/02/16

銀座ニコンサロン[東京都]

須田一政の軟体動物がうごめいているような写真世界は、1970年代からずっと気になっていた。6×6判のフォーマットの写真集『風姿花伝』(1978年)で、そのスタイルはほぼ完成するが、その後も、大判カメラ、ミノックスのような超小型カメラ、ポラロイドなどを含むさまざまなカメラを義眼のように取っ替え引っ替えしながら、記憶の奥底を覗き込むようなイメージを定着し続けてきた。1940年生まれ(荒木経惟、篠山紀信と同じ)だから、今年70歳になるわけだが、今回の個展を見てもその「ざわざわ」「ぬめぬめ」「ゆらゆら」としたスナップショットの奇妙な味わいは健在である。
タイトルの「常景」というのは須田の造語のようだが、「変哲のない存在の深さ」を探るというこのシリーズの意図にぴったりしている。彼の写真を見ていると、見慣れた街の眺めが異形の何ものかに変質し、あたかも生きもののようにうごめきはじめるように思えてくる。そのあたりのことを『アサヒカメラ』(2009年12月号)の記事で、「モノを見るとき、そのモノの本来の姿に、僕の妄想をキノコの菌糸を植えつけるように、なにかを仕掛けていっている感じ」と表現しているのだが、これは言い得て妙だろう。「妄想のキノコ」は思わぬ場所に次々に生えてきて、世界をアニミズム的な生気で満たしている。たしかにやや不気味ではあるが、どこか懐かしく、目に気持よく馴染む眺めだ。

2010/02/05(金)(飯沢耕太郎)

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