artscapeレビュー
2012年10月01日号のレビュー/プレビュー
椎原保 展 ephemera/ここのむこう
会期:2012/09/25~2012/10/07
ギャラリーアーティスロング[京都府]
画廊の備品のほか、懐中電灯、レンズ、水、火、再帰性反射布など野素材を、互いが緩やかに関係するよう点在させたインスタレーション。見た目はスカスカな空間をゆっくり歩くと、見えてくるのは、光の多彩なバリエーションだ。じっくりと空間を味わううちに、自分の日頃の美術鑑賞が、いつの間にかワンパターンになっていたことに気付かされる。慣れないスポーツや柔軟体操をして筋肉や身体の動きに改めて気付かされるように、椎原の個展は凝り固まった精神をほぐしてくれた。
2012/09/25(火)(小吹隆文)
銀座目利き百貨街2
会期:2012.09.26~2012.10.01
松屋銀座8階イベントスクエア[東京都]
49人の「目利き」がセレクトしたさまざまな「もの」の展示即売会である。49人の参加者のうち、約半数が日本デザインコミッティーの会員で、そして残りは建築家やキュレーター等々、デザインと隣り合わせに仕事をしている人たち。それぞれが「店主」となり、コンセプトに合わせて自分の「店」に洒落た屋号を付ける。ひとりひとつ、正方形の小さな台に並べられた「商品」は、その人の作品であったり、古道具であったり、蔵書であったり、外国で買い求めた怪しげな小物であったり。量産品もあれば、手作りの作品もある。なかには義眼や、海水といった、およそ商品とは呼べないようなものまで並んでいるが、気に入ったならば基本的にすべてその場で購入できる。蚤の市のような、あるいは文化祭のような趣である。「目利き」という共通テーマはとても漠然としているが、付けられた「屋号」や並べられた「商品」からは、それぞれの「店主」の仕事、思想、アプローチの方法が浮かび上がり、ほかの「店主」のセレクションと対比されることで、それがより明確になっている。「本棚を見ればその人がわかる」ともいわれるが、書物に限らず、人がなにを選ぶのかということは、言葉や作品以上にその人について雄弁に語るものなのだ。[新川徳彦]
2012/09/26(水)(SYNK)
寄藤文平の夏の一研究
会期:2012.09.03~2012.09.29
ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]
JTのマナー広告「大人たばこ養成講座」、リクルートのフリーペーパー『R25』、東京メトロのマナーポスター「○○でやろう。」シリーズなど、ポスターや装丁の仕事で知られるグラフィックデザイナー寄藤文平氏の、 夏休みの研究発表になぞらえた展覧会。ギンザ・グラフィック・ギャラリーの展覧会は、デザイナーの過去の作品や実験的な試みが展示されることが多い。しかし、今回のタイトルは「夏の一研究」である。主題は結果としての作品ではなく、アプローチの方法にある。1階会場は、さまざまな規模のスケールを伝達する方法を試みる「ミクロ←→マクロを表す一研究」や、「幸福の黄色いハンカチ」や「タイタニック」といった映画タイトルを素材とした「ピクトで絵を描く一研究」など。地下会場は「装丁の一研究」。赤瀬川原平『千利休──無言の前衛』(岩波新書、1990)を題材に、装丁デザイン発想のプロセスと試作とを見せる。と、書いてしまうとあまりにも簡単なのだが、展示空間が見事。会場壁面には縦長の特製黒板37枚が並び、33点の試作が置かれている。黒板にはチョークによる手描きの文字とイラストでデザインの理由が解説されている。中央のテーブルは来場者による人気投票のコーナー。JTや東京メトロのマナーポスターと同様、シニカルな視点が貫かれているにもかかわらず嫌味を感じさせないイラストやテキストの処理。ストレートに言っては角が立つことに斜めから切り込む表現を見ると、大人とはかくありたいと思うのである。[新川徳彦]
2012/09/26(水)(SYNK)
オールドノリタケのなかの女性たち
会期:2012.09.14~2012.11.11
八王子市夢美術館[東京都]
1876(明治9)年に森村市左衛門によって創業された森村組、および1904(明治37)年に森村組が設立した日本陶器合名会社(1917年に日本陶器株式会社、1981年に株式会社ノリタケカンパニーリミテドに改称)において、明治から昭和初期にかけ製作された陶磁器を「オールドノリタケ」という。製品は欧米、とくに北米への輸出向けに生産されたために、国内ではほとんど知られておらず、1970年代にアメリカで「再発見」された。日本では「里帰り」を実現させた一部の蒐集家たちによって1990年代になってようやくその名前が知られるようになり、近年はずいぶんと蒐集家の数も増えてきたようだ。本展で初公開されるオールドノリタケも蒐集家田端義雄氏のコレクションの一部である。オールドノリタケというと、西洋風の風景画や女性像の周囲に金盛で豪華な装飾を施した壺などが知られるが、今回はおもに1920年代に製造されたアールデコ様式の製品、なかでも女性をモチーフにした作品約100点が出品されている。
アールデコ様式のノリタケ製品には、絵皿のように絵画的にモチーフを表現したもの(チラシ画像参照)と、フィギュアを模ったランプ や小物入れ 、シガレットジャーやキャンディー入れ、香水瓶などの立体的な作品とがある。この時代の製品にはラスター彩と呼ばれるパールのような輝きの釉薬が用いられているのも特徴のひとつである。絵付けにはエルテ(Erte、1892-1990)やホーマー・コナント(Homer Conant、1887-1927)の作品や雑誌などからモチーフがとられ、立体作品にはロブジェ(Robj)など同時代のフランス陶磁器からの影響も見られる。
輸出商であった森村組は1878(明治11)年にはニューヨークに支社を設立。1895(明治28)年には現地に図案部を設置し、アメリカ人の嗜好に迅速に対応して製品をつくるシステムを整えていたという。現地デザイナーによる図案や流行に関する情報は日本に伝えられ、日本の工場でつくられた製品が欧米に輸出されていたのである。1929年10月に始まる大恐慌によりアメリカでの陶磁器需要が収縮し、これを境にノリタケ製品はアールデコなどファンシーウェアから、より実用的なディナーウェアへと切り替えられた。市場の変化を読み、顧客の満足に応えることを信条とした経営を行なった森村組と日本陶器。美しくモダンな装いの女性像は、様式という点で時代を反映しているばかりではなく、第一次世界大戦の終結から大恐慌までの短い期間、その時代背景の下で輝きを放つ存在だったのである。[新川徳彦]
2012/09/27(木)(SYNK)
プレビュー:アンドロイド版『三人姉妹』
会期:2012.10.20~2012.11.04
吉祥寺シアター[東京都]
先のレビューで触れた砂連尾理らの公演、あるいはパラリンピック、あるいはEテレの番組『バリバラ』などを見ていると、五体満足なエリート的身体以外の身体を見る面白さに気づかされる。優劣ではなく個性を見るというとありふれた言い回しだが、各身体の性能に注目し、驚いたり、思いがけない魅力に気づかされたりすることは、純粋に楽しい。さて、これが人間ではなく機械の身体であったら、どうだろう。平田オリザがロボット研究者の石黒浩と続けてきたロボット演劇あるいはアンドロイド演劇は、演劇のなかで身体がどう扱われてきたか、そして今後どう扱いうるのかをめぐる大胆なプロジェクトだ。舞台に立つのが役者(人間)ではなくロボットでもいいんだという衝撃は、ロボットの社会的活用といったテーマ以上に、人間とはなにかそして演劇とはなにかを照らし出す。今回のアンドロイド版『三人姉妹』(10月20日~11月4日@吉祥寺シアター)でも、そうした目の醒めるような衝撃を期待したい。
2012/09/28(金)(木村覚)