artscapeレビュー

2013年07月15日号のレビュー/プレビュー

街の記憶 写真と現代美術でたどるヨコスカ

会期:2013/04/27~2013/06/30

横須賀美術館[神奈川県]

横須賀という街のイメージは、写真によって形づくられている。私にとっても、1960~70年代に東松照明、北井一夫、森山大道、石内都らが撮影したアメリカ軍基地が大きく影を落とす「ヨコスカ」の写真群は、それらが日本の写真表現に大きな転換をもたらしたということもあって、トラウマのように記憶に食い込むものとなってきた。
だが、横須賀美術館で開催された「街の記憶 写真と現代美術でたどるヨコスカ」展からは、横須賀のイメージがもっと広がりと多層性を備えたものであることが見えてくる。これまであまり取り上げられることのなかった高橋和海、市川美幸らの作品は、彼らが生まれ育った横須賀の「海」のイメージを写真という装置を介して内面化しようとする試みといえる。また、田村彰英の「Road」やホンマタカシの「東京郊外」シリーズのなかに、横須賀とその周辺の写真が含まれていたことは新鮮な驚きだった。これらに横須賀の古写真や絵葉書、若江漢字や藤田修の現代美術や版画の領域に属する作品などを重ね合わせていくと、写真を通じて横須賀の成り立ちをマッピングしようという今回の展示が、より重層的な厚みを備えてくることになる。もっと数を増やしてほしかったのだが、市民のスナップショットを展示したコーナーもけっこう面白かった。
目黒美術館で2013年2月~3月に開催された「記憶写真展」もそうだったのだが、都市やある地域の「記憶」を再構築しようとするときに、写真がとても有効な媒介物となることが、あらためて証明されつつあるのではないだろうか。他の場所でも、同様の企画は充分に成立すると思う。

2013/06/25(火)(飯沢耕太郎)

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石原友明「アウラとエクトプラズム」

会期:2013/06/22~2013/07/28

MEM[東京都]

1980年代後半~90年代にかけて、森村泰昌、やなぎみわ、小山穂太郎、佐藤時啓など、美術系の大学の在校生、卒業生たちが写真作品を発表し始めた。彼らの作品は発想においても手法においても、また展示(インスタレーション)のあり方も、従来の「写真家」のそれとはまったく異なっており、大きなインパクトを与えるものだった。そのなかで、石原友明の印画紙に焼き付けたセルフポートレートに原色でドローイングした作品も、鮮やかに記憶に刻みつけられている。石原は1990年代から2000年代初めにかけても、精力的に作品を発表し続ける。だが、その後は京都市立芸術大学で教育の現場に携わっていたこともあって、作家活動はほぼ休止状態になっていた。今回のMEMでの展示は、ほぼ10年ぶりの個展になるのだという。
「アウラとエクトプラズム」と名づけられた今回の個展でも、身体の「かたち」にこだわり続ける姿勢は一貫している。「自分の持っている『かたち』を眼で触り、捏ねながら、拡大、延長、投影、反転、切断して、再度『かたちづく』ってゆく」その作業の過程において、最大限に活用されているのが、写真による「セルフポートレート」であることにも変わりはない。今回の展示には、革袋を連ねたようなフォルムの自作のオブジェを、裸になって抱えたりくわえたりしている写真作品が出品されていた。それを見ると、いまは50歳代の石原の身体は、明らかに小太りの中年男性の体型になっている。それでもなお、体を張って作品制作を続ける彼の姿勢に感動を覚えた。

2013/06/26(水)(飯沢耕太郎)

studio velocity《瞬間をとじ込める椅子》(せんだいスクール・オブ・デザイン CiR)

[宮城県]

せんだいスクール・オブ・デザインのレジデンス枠で、スタジオ・ヴェロシティが仙台で採取した植物をアクリルで固める椅子を制作している。倉俣史朗を想起させるが、こちらは造花の薔薇ではなく、生きた野草であり、アクリルは椅子の座面のみだ。これはあいちトリエンナーレ2013の岡崎会場において、彼らが真白に塗っているシビコという百貨店の屋上にて、風でそよぐ無数の細い糸のインスタレーションとともに設置される。

2013/06/27(木)(五十嵐太郎)

小山利枝子 展

会期:2013/06/25~2013/07/07

アートコンプレックス・センター[東京都]

住宅地に建つこのスペースには以前、夜のパフォーマンス公演を見に来たことはあるけど、昼間来るのは初めて。ずいぶん奇抜な外観だ。内部も奥が深い。その地下全室を使っての個展。150号を3点つないだ大画面3点を中心に、100号以上の大作が並ぶさまは壮観。奥には花を描いた水彩などの小品もある。小山は花の絵から徐々にかたちを崩して流動化させ、色彩とストロークを強調した抽象画に近づいていたが、今回、中央に鎮座する幅5メートル近い大作には、ぼやけているとはいえ明らかに花とわかる形象が描かれている。しかもそれがほかならぬ蓮の花である点に、なにか作者の心境の変化を感じずにはいられない。もちろん大震災と原発事故が響いていることは間違いないだろうけど、これが過去への揺り戻しなのか、それとも新たな方向性を示しているのか。

2013/06/28(金)(村田真)

大細密 展

会期:2013/06/25~2013/06/30

アートコンプレックス・センター[東京都]

2階では「大細密展」ってのをやってたんで見に行ったら、約30人が出品する大規模な展示。といってもいわゆる「細密画」は半分くらいで、イラストみたいな小品も少なくない。目を引くのは、アウトサイダーアート顔負けの細かい線描で画面を覆い尽くしたペン画。細い線で花とか動物とか描いているのだが、その全体像より線の集積に目が行ってしまう。一線を越えると細密画というのは「なにか」を表わす手段ではなくなり、線描そのものが目的化していくのかもしれない。

2013/06/28(金)(村田真)

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