artscapeレビュー
2013年07月15日号のレビュー/プレビュー
藤原彩人 彫刻「空の景色と空な心」
会期:2013/06/06~2013/06/23
ギャラリー21yo-j[東京都]
大きな壁面に陶板レリーフがドーンと1点、床に1メートル余りの立像が3体。レリーフは、向かい合ってヒソヒソ話するふたりのヌード像で、その足下から黒い影が左下に3メートルほどビヨーンと延びている。影をレリーフで表現するか? しかも影にまで目や鼻の輪郭線が描かれている。ここでは人体が平面化し、影が立体化して等価になっているのだ。2次元と3次元、あるいは絵画と彫刻の境界を考えさせる作品。一方、3体の立像はいずれも短足で、尻がデカく、手も長く、なで肩で、ポケッと口を開けている、つまり「だらしない」かっこうをしている。これは別に日本人の不格好さを揶揄したものではなく、陶の素材や成型上の制約から導かれた形態らしい。内部は空っぽで、脚や腕も空洞になっているという。いわば器。ここに人体=陶器のアナロジーを読みとることもできる。意外と奥が深いなあ。
2013/06/23(日)(村田真)
石原友明「アウラとエクトプラズム」
会期:2013/06/22~2013/07/28
MEM[東京都]
スタイロフォームの球体をつなげて革をかぶせたモコモコの物件と、それを石原自身の身体に装着した写真の展示。その物件にはマウスピースみたいなものがついていて、写真では全裸の石原がそれを口にくわえた状態で写っている。これがちょうど口から出たアウラやエクトプラズムのように見えなくもない。いわば身体から出た霊体の物体化。ほかにも、正方形の画面に全裸の作者自身をプリントし、その上からレオナルドの人体比例図のように円形や線を加えた作品もあり、初期のセルフヌードを思い出す。革の球体もセルフヌードも80年代に出てきた形態やアイディアだが、それらを入れ替えたり組み替えたりしながら新たな展開を見せている。
2013/06/23(日)(村田真)
田村尚子「ソローニュの森」
会期:2013/06/06~2013/06/23
中之島デザインミュージアム de sign de>[大阪府]
フランス・ソローニュのラ・ボルド精神病院を舞台に、そこに滞在する患者やスタッフの日常を撮影した『ソローニュの森』(医学書院、2012)は、田村尚子のふわふわと宙を漂いながら被写体を包み込み、からめとっていくような眼差しのあり方が印象的な写真集だった。今回の中之島デザインミュージアム de sign de>での展示は、その写真集の収録作を中心にしたものだが、かなり雰囲気が違って見えた。
患者とスタッフが自転車でピクニックに出かける場面を撮影した「白のシリーズ」は、57・5×86センチのかなり大きなプリントに引き伸ばして展示してある。画像が白っぽく飛んだ領域が大きくなることで、彼らの存在はより寄る辺ないものになり、見る者の不安感をさらに強く喚起する。ラ・ボルドの室内や中庭などの描写も、写真集で見たときよりも「自分がそこにいる」という現実感が強まっているように感じた。それに加えて、滞在者の手記をポラロイド印画紙の膜面に直接タイピングした作品や、前作の「Voice」シリーズ(2004年に青幻舎から写真集として刊行)からの写真も展示されていて、全体として田村自身のソローニュでの体験を、その感情的な起伏をなぞるように再構築されていた。土佐堀川に面していて、水と光を贅沢に取り入れることができる会場の空間の特質を活かしたインスタレーションが、とてもうまくいっていたのではないかと思う。
ラ・ボルド精神病院での撮影は、まだ終わったわけではないようだ。展示からは、このシリーズがさらに変容・発展していく可能性も感じ取ることができた。
2013/06/23(日)(飯沢耕太郎)
《松坂屋》
[東京都]
いったん営業終了となる銀座の松坂屋を訪れた。戦後のデザインは、アントニン・レーモンドが関わっていたが、建物の背後など、一部にまだ少しその名残がある。館内には、百貨店の歴史展示や、昔ここで開催した美術展のカタログを紹介するコーナーも設けられていたが、セールで大勢がごった返す状況において誰も気にしていない。これは残念だ。また松坂屋の裏側も歩いてみると、人知れず、けっこう良質の渋ビルが幾つか発見できる。
2013/06/23(日)(五十嵐太郎)
國府理「未来のいえ」
会期:2013/06/22~2013/07/28
西宮市大谷記念美術館[兵庫県]
西宮市大谷記念美術館で、これまでに発表された國府理の初期作から最新作まで、12点の作品を紹介する展覧会が開催されている。國府がこれまでに制作、発表してきた自動車や船等の乗り物を素材とした作品は現存していないものも多い。そのため、今展にはこの機のために再現された作品もある。展示数は多くはないが、今展は、科学技術の進歩と自然を、対立したものとしてとらえるのではなく、人間の目的意識やその努力による技術的所産がうまれる状況にも目を向け、夢という未来や現実の世界の状況を見つめて制作し続けてきた作家の眼差しがうかがえる展示となっていて見応えがある。7月28日(日)まで開催され、毎週土曜日には、國府自身が会場にて展示作品のメンテナンスや試運転を行なっている。もしその時ならば、國府の思想と作品のイメージを重ねて見ることもでき、一層会場の展示が楽しめるだろう。作品解説には「120%の力を出す」というアスリートの言葉が例にあげられていたが、人間のはかりしれない力とエネルギーをテーマに制作された《Mental Powered Vehicle》(2006)はハンドルに手をかざせばプロペラが回転する車で、とくに実際に作動中のところが見てみたいもの。
2013/06/25(火)(酒井千穂)