artscapeレビュー
2013年07月15日号のレビュー/プレビュー
トーキョーワンダーウォール公募2013入選作品展
会期:2013/05/18~2013/06/09
東京都現代美術館[東京都]
毎年100人ほどの入選者のうち、足を止めて見てみたいと思えるのはせいぜい5、6人だが、今年はもっとキビシー。透明感のある岩を描いた岩瀬晴香、ちょっとだれかに似てるけど三井淑香、色彩が美しい清水香帆の絵画に、かろうじて目が止まった程度。3人とも女性で、なぜか全員「香」がつくぞ。関係ないけど。
2013/06/07(金)(村田真)
脱線!スパニッシュ・フライ
会期:2013/06/08~2013/06/09
静岡芸術劇場[静岡県]
ふじのくにせかい演劇祭2013を鑑賞する。静岡芸術劇場では、ドイツの演劇「脱線!スパニッシュ・フライ」。字幕付きでコメディを理解するのは、どうしてもストレスがかかるが、鮮やかな色彩の衣装、髪型、そして過剰な動きでけっこう楽しめる。巨大な絨毯一枚だけでいろいろな働きをする舞台美術が印象的だった。間仕切りの代わりに、ひだを活用したり、一部にトランポリンを組み込むなど、ランドスケープ的な空間である。
2013/06/08(土)(五十嵐太郎)
黄金の馬車
舞台芸術公園 野外劇場「有度」[静岡県]
会期:2013/6/1・8・15・22
続いて、ここも磯崎新が施設群を設計した舞台芸術公園に移動し、宮城聡が演出する「黄金の馬車」を観劇した。最初から最後まで一度もだれることなく、リズミカルで勢いがあって、メタ的で観客も巻き込んで、面白い。現実と虚構、言葉と身体、旧作の再解釈などがテーマになるのだが、とくに演出に合わせ、気持ちのいい野外劇場の構造を反転させた空間の使い方に感心した。建築家の木津潤平が、これらのデザインを担当している。
2013/06/08(土)(五十嵐太郎)
ワタノハスマイル展「未来に伝えるキオクのカケラ。」
会期:2013/05/25~2013/06/23
colissimo[兵庫県]
兵庫県篠山市にある旧郵便局舎を再生したギャラリーcolissimo(コリシモ)で、東日本大震災で被災した宮城県石巻市、渡波(わたのは)地区の子どもたちが、避難した小学校の校庭に流れ着いたがれきでつくったオブジェを展示した「ワタノハスマイル展」が開催されていた。これは震災直後から渡波小学校でボランティア活動を行なってきた造形作家の犬飼ともさんが立ち上げたプロジェクトで、現在、全国各地のギャラリーやイベント会場を巡回している。今展では、会場の1階と2階のスペース、廊下、階段など建物全体に約80点のオブジェが展示された。入口で出迎えてくれたのは、郵便ポストに「目」や「耳」をつけた《いたずらポストくん(たかはしみさき)》。「手紙を出す人か出さない人なのかを、耳のセンサーで探している。好きな食べ物は手紙。食べちゃうよ。そして困らせちゃうよ。」という作品解説もあとで見つけたのだが、このように展示されたオブジェには、すべてにキャラクターとストーリーが設定されている。どれも愉快で、ひとつずつ解説を読んでいくとつい顔もほころぶ。それぞれの想像力やセンスにも感心しきりだったが、同時に、それらのがれきが本来はがれきなどではなく、人々の暮らしのなかで機能していたことにも思いが巡った。ギャラリーの高橋さんとともに今展の開催に協力したアトリエインカーブのチーフスタジオマネージャーの林さんが二人で制作、設置した展示台が並ぶ2階のスペースはとくに印象的だった。できたら子どもの目線の高さで見てほしいと、それらの展示台は低くつくられていたのだが、床に座り窓際に展示された作品群を眺めると、窓の向こう側の小学校の校庭も視界に入ってくるのだ。私もそうだが、テレビや新聞、ネットなどを通じてしか被災地の状況を知らない人たちは、震災のリアリティも記憶も直接経験した人たちとは異なり、そして時間が経っていくなかで記憶が薄らいでいたり、忘れてしまうこともある。子どもたちの作品を通して、被災地の人々に思いをめぐらせ、忘れないようにできたらといっていた高橋さんの言葉も印象に残っているが、なによりこの展覧会をこの場所で見ることができたことが嬉しい。
2013/06/09(日)(酒井千穂)
野村浩「ヱキスドラ ララララ・・・」
会期:2013/06/08~2013/07/14
POETIC SCAPE[東京都]
野村浩は東京藝術大学在学中の1991年、第一回「写真新世紀」の公募に出品し、「エキスドラ」と題する作品で佳作に入賞した。僕はそのときの審査を担当していたので、その作品はよく覚えている。「ドラえもん」のバリエーションである等身大のキャラクターを、街の中に置いて撮影した写真を、白黒コピーしてコントラストを上げ、綴じ合わせた手づくり写真集だった。現実世界のリアルな描写という、従来の写真表現の枠組みからまったく外れた作品がいっせいに登場してくる時代の流れを、くっきりと指し示す作品だったことが、強く印象に残っている。
この「エキスドラ」のシリーズが、20年以上の時を隔ててよみがえった。今回の「ヱキスドラ ララララ・・・」も、現実世界をそのままストレートに描写する作品ではない。今回彼が被写体としているのは、Googleのストリートビューの画像だ。日本各地の路上の光景を、無作為に選び出し、そこに「ヱキスドラ」をシルエットで配している。基本は2体(ペア)で出現する「ヱキスドラ」たちは、たとえばラブホテルの入口にたたずんだり、「洋服の青山」の前の群衆に紛れこんだり、建築工事現場の前に列をつくったりして、その場所の持つ意味を軽やかに変換してしまう。ストリートビューはむろん仮想現実には違いないのだが、並みの都市風景写真を凌駕するようなリアリティを備えている。そこにもうひとつの仮想現実である「ヱキスドラ」たちがかぶさることで、そのリアリティがさらに増幅するように思えてくるのが興味深い。
展示にはさらに工夫が凝らされていて、会場の入口のドアとショーウィンドーには「ヱキスドラ」を配したギャラリーの建物のストリートビューの画像が、大きく引き伸ばされて飾ってあった。ストリートビューの画像を、まさにその場所に展示するというのは、なかなか面白い試みだと思う。
2013/06/09(日)(飯沢耕太郎)