artscapeレビュー
2013年09月15日号のレビュー/プレビュー
ポート・ジャーニー・プロジェクト メルボルン⇄横浜
会期:2013/08/09~2013/09/04
象の鼻テラス[神奈川県]
横浜とメルボルンのアートプロジェクト交換事業。昨年メルボルンからプルー・クロームが来日・制作・発表したのに続き、この5月さとうりさが《宇宙船“かりぬい”》を携えてメルボルンに乗り込んだ。《宇宙船“かりぬい”》は卵を細長くして安定感をもたせたバルーンで、高さ2メートルほどあり、人が入って立てる大きさ。もちろん宇宙船といっても機械もなにもなく、通風口から空気を送り続けないとしぼんでしまうのだが、内部はのっぺりした曲面に覆われ、角も平らな面もないせいか大きさの感覚や距離感が失われ、ある種の快さを覚える。メルボルンでは路上、カフェ、植物園、大学構内など市内各地をさまよったという。今回はその帰国展だが、いつもながらカフェに展示されてるため見映えがよくない。この日も夜に卓球大会があるというので隅に押しやられていた。かわいそ。
2013/08/30(金)(村田真)
牛腸茂雄「見慣れた街の中で」
会期:2013/08/31~2013/09/22
MEM[東京都]
牛腸茂雄の『見慣れた街の中で』(1981)は、彼が遺した3冊の写真集(ほかに『日々』1971、『SELF AND OTHERS』1977)のなかで、最も評価が難しいものかもしれない。『日々』は桑沢デザイン研究所時代以来のスナップショットの修練の賜物というべき写真集だし、『SELF AND OTHERS』の緊密な構成、完成度の高さは、代表作と呼ぶのにふさわしい。だが、『見慣れた街の中で』は当時としては珍しくカラー・ポジフィルム(コダクローム)を使っているのを含めて、どうもおさまりが悪い写真集だ。一見すると、どうということもない街の一角を切り取ったスナップとしか思えないこのシリーズで、牛腸が目指していたものが何だったのか、うまく伝わらないもどかしさを彼自身も感じていたのではないだろうか。
だが、最近になってこの写真集の持つ魅力と可能性が、あらためて見えてきたような気がしてならない。いわゆる「ニューカラー」の先駆ということだけではなく、牛腸は確信的に曖昧な街の雑踏を切り取ることで、彼にしか見えない「もう一つの現実」を浮かび上がらせるという力業を試みようとしていたのだ。それだけでなく、どこかふわふわと宙を漂うような写真群を見ていると、2年後に亡くなる牛腸が、すでに死の予感を覚えつつ撮影を続けていたように思えてならない。時折、「見慣れた街」がこの世ならぬ眺めに見えてきて、震撼させられることがある。
今回のMEMの展示では、ポジフィルムをスキャニングして再プリントすることで、これまでとは見違えるほどのクリアーな画面を実現することができた。光と闇のコントラストがより強まるとともに、コダクローム特有の赤や黄色の発色も鮮やかになってきている。そのことによって、牛腸の言う「人間存在の不可解な影のよぎり」が、逆にくっきりと見えてきたのではないだろうか。
なお、本展は牛腸茂雄の没後30年記念企画の一環として開催されたものであり、9月24日~10月14日には彼の子どもを被写体とした写真群を集成した「こども」展が同じ会場で開催される。また新編集の写真集『見慣れた街の中で』(山羊舍)と『こども』(白水社)も同時に発売される。新装版の『見慣れた街の中で』には、個展では発表されたが前の写真集には未収録の作品、27点もおさめられている。牛腸の仕事の広がりをあらためて確認するいい機会になるはずだ。
2013/08/31(土)(飯沢耕太郎)
アンドレアス・グルスキー展
会期:2013/07/03~2013/09/16
国立新美術館 企画展示室1E[東京都]
国立新美術館のアンドレアス・グルスキー展へ。建築的な視点をもって、世界を切り取る写真である。通常の個展では、各シリーズごとにまとめて作品を紹介するが、あえてばらばらに分解して配置していた。したがって、少しずつ変容していく同じ作家の小さな個展を連続して見るかのよう。おそらくキャプションを排し、番号だけのミニマルな展示を目指したのに、オーディオガイドの番号が付加され、残念だった。
2013/08/31(土)(五十嵐太郎)
クリスチャン・ケレツ展 Christian Kerez
会期:2013/07/19~2013/09/28
TOTOギャラリー・間[東京都]
ギャラリー間のクリスチャン・ケレツ展へ。いわゆる大がかりな空間のインスタレーションがない、正統派の建築展だが、それゆえに構造や構成をきちんと見せる模型を通じて、彼の新しい建築の考え方がダイナミックに伝わってくる。コンセプトの表現としての模型の力を存分に発揮していることに好感をもった。
2013/08/31(土)(五十嵐太郎)
アトリエ・アンド・アイ+坂本一成研究室《egota house B》
[東京都]
竣工:2013年8月
坂本一成さんの《egota house B》のオープンハウスを訪れる。以前、平面を階ごとに縦・横の壁で交互に分割し、それをメゾネットでつなぎ、四方の見通しを確保するA棟(2004)も拝見したが、今回は同じ考えを踏襲しつつ、立体交差が増えたより複雑なパズルのように解き、開放的な空間を生む。
2013/08/31(土)(五十嵐太郎)