artscapeレビュー

2009年09月15日号のレビュー/プレビュー

石上純也+杉本博司(ARCHITECT TOKYO 2009)

会期:2009/08/01~2009/08/29

ギャラリー小柳[東京都]

都内6軒の現代美術の画廊が同時期に開く建築展のひとつ。ここでは石上純也と杉本博司の出品。いよいよ画廊も建築に触手を伸ばし始めたか、というより、建築が画廊に侵出し始めたというべきか。杉本博司も建築に侵出しているし。

2009/08/07(金)(村田真)

冨倉崇嗣 展

会期:2009/07/27~2009/08/08

Oギャラリーeyes[大阪府]

すべてを見るということは、何も見ていないことと同じである。冨倉の絵画を見ているといつもそんな言葉が浮かんでくる。背景に遠のいていたモチーフに意識が集中していくとき、同時にそれにまつわるイメージや記憶も引き出されて連想がひろがっていく。空間や時間の距離感を楽しむように、図と地のあいだを行ったり来たりして遊ぶ感覚とそこで変化するイメージの振幅が面白い。展示のなかに《marimo》という作品があった。緑がかったたくさんの丸いマリモが水面に浮かんでいる。傾いた水平線と、すべてが浮遊するような不安定な印象が強烈に記憶に残った。

2009/08/07(金)(酒井千穂)

堂島リバービエンナーレ2009「リフレクションアートに見る世界の今」

会期:2009/08/08~2009/09/06

[大阪府]

今後、堂島リバーフォーラムが隔年で開催するという堂島リバービエンナーレの第一回目。「リフレクション:アートに見る世界の今(Reflection: The World Through Art)」と題し、「シンガポールビエンナーレ」2006年の第一回展、2008年の第二回展の出品作品のなかから政治的、社会的、文化的な問題提起を行なう作品26点を紹介。現実を写す鏡としてのアートを通じて、現代社会をとらえるさまざまな視点を知り、国や個人としての在り方、生き方について考えるという趣旨。ボリビアのウユニ塩原で撮影されたというチャーリー・ニジンソンの《漂流する人々》というビデオインスタレーションは、水面に白い雲と青い空が反射して映る美しい光景と、バリバリという時に激しい風の音が印象的な映像作品。そこに映る微動だにしない人影の存在が、大変ちっぽけにも神々しいものにも思えて不思議だった。アジア地域からの出品作家は15名。現在の環境や、それぞれの国の歴史の文脈、そのなかでの社会通念や倫理的問題など、各作家が扱うテーマと物語性を孕んだ作品は、偏りのないバランスで構成されていて、全体的にとても見応えのある内容。もっとゆっくり見たかった。

2009/08/07(金)(酒井千穂)

『写真集 土門拳の「早稲田1937」』

発行所:講談社

発行日:2009年7月24日

「生誕百年」ということで、土門拳の業績を回顧する出版物、展覧会などが相次いでいる。その大部分は代表作の「ヒロシマ」「筑豊のこどもたち」「古寺巡礼」などが中心で、正直あまり新味はない。だが、この『写真集 土門拳の「早稲田1937」』には意表をつかれた。これまでほとんど取り上げられてこなかったのが不思議なくらいの興味深い内容のシリーズである。
土門は1935年に名取洋之助が主宰する日本工房に入社し、写真家としての本格的な活動を開始する。名取のほとんどサディスト的な厳しい指導ぶりは語りぐさになっていて、土門は暗室でよく悔し涙を流していたという。早稲田大学政治経済学部経済学科の卒業記念アルバム『早稲田1937』は、その土門の最初の個人写真集というべき仕事。日本工房のデザイナー熊田五郎(のちに千佳慕と改名して挿絵画家となる)とのコンビで、素晴らしく完成度の高いアルバムに仕上がっている。入社二年目にして、土門の的確に被写体を把握し、画面におさめていくスナップショットの能力が相当に鍛え上げられていたことがわかる。何よりも、まだ若い兄貴分の土門と学生たちが、信頼の絆に結ばれて撮ったり、撮られたりしている様子がいきいきと伝わってくる。
当時の大学生には、現在では考えられないほどの社会的な地位の高さがあり、彼らも周囲の期待に応えなければならないという誇りと気概をもって学生生活を送っていた。その緊張感と、オフの時間を過ごす彼らのリラックスした表情とが、ほどよいバランスを保って品のいい写真に写しとられている。この中には、すぐ先に迫っていた戦争で命を失った者もいるのではないだろうか。屈託のない若者たちの笑顔を見ながら、そんなことも考えさせられた。

2009/08/08(土)(飯沢耕太郎)

アイ・ウェイウェイ展──何に因って?

会期:2009/07/25~2009/11/08

森美術館[東京都]

パンダの展覧会かと思ったら、中国の現代美術家だそうだ。プーアール茶を1立方メートル、重さ1トンの立方体に固めたり、伝統的な組木技法によって中国の地図をつくったり、骨董品の壺に「Coca-Cola」と書き加えたり。ミニマリズム、コンセプチュアリズムにポップな味つけを加えたうえ、中国の素材や技法を用いてるので欧米のマーケットでも大ウケ間違いなし。そのわかりやすさ、切れ味の鋭さゆえに「語るに落ちる」ほどだが、落ちきらずになにか引っかかるところに彼の芸術性がある。

2009/08/08(土)(村田真)

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