artscapeレビュー

2009年09月15日号のレビュー/プレビュー

絵画の、あつみ

会期:2009/07/25~2009/08/23

練馬区立美術館[東京都]

コレクションを基礎とした企画展示。絵画というと「なにが描かれているか」という表面のイメージばかり気になり、「どこに描かれているか」という厚みをもった物質的側面は無視されがち。その「厚み」に注目した興味深い展示だ。絵具をこってり盛り上げた油絵をはじめ、キャンヴァスの裏側、日本画の表装や油絵の額縁なども見せているが、最大の目玉は、美術館ファサードを覆うガラス面に描いた吉田暁子の作品だ。ガラスに和紙を貼って色を塗り、オバケみたいなものを現出させている。ガラスは物質性が希薄なので厚みを感じさせないが、向こう側の風景も採り込むことができるから、いちばん厚みがある(奥行きが深い)とも言えるだろう。

2009/08/22(土)(村田真)

涼音堂茶舗「電子音楽の夕べ」

会期:2009/08/22~2009/08/23

法然院 方丈[京都府]

毎年、法然院方丈で開催されている「電子音楽の夕べ」。辺りが暗くなると無数の蛍が闇の中を飛んでいるかのような幻想的な光景が出現する「浄土庭園」での粟倉久達による光のインスタレーションは、「銀河鉄道の夜」をイメージしたもの。併設の茶席空間では障子をスクリーンにデザインユニット「東京食堂」の映像作品が上映される。面白いのは、開演の頃になると外からさまざまな虫の鳴き声が聞こえてくること。電子音と虫や風の音が合わさっていくライブと、伝統技術を継承しながら現代美術の接点として活動する作家たちが創りあげる空間は、会場である法然院自体の風情もさることながら、音楽イベントという枠にとどまらない魅力に溢れていて毎回、次回の開催が待ち遠しくなるほどスゴい。

2009/08/22(土)(酒井千穂)

松本陽子/野口里佳「光」

会期:2009/08/19~2009/10/19

国立新美術館[東京都]

絵画と写真、2人の女性アーテストによる2人展。松本に「光は荒野のなかに輝いている」(1992~93)というシリーズがあり、野口にも「太陽」(2005~08)というシリーズがあるなど、一応「光」というテーマがゆるく設定されているが、実際には2人の独立した回顧展といってよい。
野口は1990年代の「フジヤマ」(1997)から近作の「虫と光」(2009~)まで、意欲的に作品の幅を広げ、ライトテーブルを使ったインスタレーション(「白い紙」2005)や、島袋道浩との共同制作のビデオ作品(「星」2009)などさまざまな手法にチャレンジしはじめている。ちょうど伊島薫の太陽の作品を見た後だったのでより強く感じたのだが、照明を暗く落とした部屋に、スポットライトをあてて作品を見せる「太陽」のインスタレーションなどを見ると、野口と伊島の世代では、展示の意識と仕上げにかなり差がついてしまっているように感じる。90年代以降、印刷媒体からギャラリーや美術館での展示に作品の最終的な発表の媒体が変わったことの影響とその消化のあり方の違いが、端的にあらわれてきているのだ。
もう一つ松本の作品を見ながら考えたのは、同じく「光」を扱うにしても、絵画と写真ではその見え方が違ってくるということ。絵画は「光」を現在形で、その生成や変化の相でとらえることができるのに対して、写真はどうしても過去形、「かつてあった出来事」としてしか定着することができない。それを何とか「生まれつつある」形で提示するために、野口はさまざまな工夫を凝らしている。ブレ、ボケ、滲み、ハレーション──論理的で明晰な構造を備えた野口の作品にそのような「揺らぎ」が付加されているのはそのためなのだろう。

2009/08/23(日)(飯沢耕太郎)

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後藤剛「日日日日。2001─2008」

会期:2009/08/17~2009/08/30

蒼穹舎[東京都]

後藤剛は1970年生まれ、大阪在住のアマチュア写真家だが、2000年代初頭から街歩きのスナップ写真を撮り続けてきた。今回の展示は蒼穹舎から同名の写真集が刊行されたのをきっかけにして、これまでの作品をまとめたもの。大阪・兵庫を中心にどこか「昭和」の匂いのする光景が写しとられている。「斜陽」という言葉がふと頭に浮かぶ。別に西陽の写真がとりたてて多いわけではないのだが、夕方の、闇が迫ってくる時や季節の哀感が、写真全体から滲み出ているように感じるのだ。また、どうしても尾仲浩二の旅のスナップを思い出してしまう。被写体に対峙する距離感が共通しているのだろう。画面の細部からわらわらと湧き出てくる、建物や通行人たちの表情がなかなか味わい深い。もう既にスタイルとしては確立しているので、これくらいの質の写真はいくらでも撮れるのではないか。とすると、もう少し違ったテーマにチャレンジしてもいいのではないだろうか。

2009/08/23(日)(飯沢耕太郎)

手塚愛子 展

会期:2009/07/16~2009/09/09

ケンジタキギャラリー[東京都]

1枚の織物から1色だけ糸を引き抜いてみたり、薄い布にあやとりのようすを刺繍してみたり。糸を手であやつるあやとり自体が刺繍を暗示するが、ここで興味深いのは、布の裏側にたわんだ糸が透けて見えること。その背後の糸は、あやとりのイメージを形成するうえで欠かせないネガの部分を担っているのだ。その半透明の透けぐあいが、ちょうどマティスの何度も描き直したドローイングを想起させることもつけくわえておこう。

2009/08/26(水)(村田真)

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