artscapeレビュー

2009年09月15日号のレビュー/プレビュー

メキシコ20世紀絵画展

会期:2009/07/04~2009/08/30

世田谷美術館[東京都]

最初の部屋に、チラシにも載ってるフリーダ・カーロのエリマキトカゲみたいな《メダリオンをつけた自画像》が1点、うやうやしく飾られている。これを見てがっかりした。いやこの作品はいいんですよ。いいんだけど、それが水戸黄門の印籠のごとく掲げられてるということは、これがこの展覧会の最高の作品ですよ、これに勝る作品はもうありませんと最初に宣言してるようなもんではないか。やっぱ印籠は最後に出さなきゃ。実際、日本の戦前のシュルレアリスム絵画や戦後のルポルタージュ絵画に通じる作品や、壮大な壁画運動を彷佛させるような作品もあってそれなりに考えさせられるが、全体に小粒の作品が多いせいか、なんだメキシコ絵画ってこの程度かよと思ってしまう。リベラかシケイロスの壁画の原寸大レプリカが1点でもあれば、また印象も違っただろうが、まあカネもかかるし、レプリカじゃよけい印象が悪くなりかねないし。

2009/08/27(木)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00005204.json s 1209073

建築以前・建築以後 展

会期:2009/08/01~2009/08/29

小山登美夫ギャラリー 7F[東京都]

清澄白河の巨大倉庫の中にいくつかのギャラリーが移転した。そのうちのひとつ小山登美夫ギャラリーで開かれた「建築以前・建築以後 展」では、菊竹清訓、伊東豊雄、妹島和世、西沢立衛、SANAAによる、過去の未完プロジェクトや、現在進行中のプロジェクトなどが紹介された。菊竹の一連の「海上都市プロジェクト」、伊東のオスロの「ダイクマン中央図書館」コンペ案、妹島の「犬島アートプロジェクト」、西沢の「ガーデンアンドハウス」と「t-project」、そしてSANAA(妹島和世+西沢立衛)の「スイス連邦工科大学ローザンヌ校ロレックス・ラーニング・センター」がそれぞれ展示されていた。作品の共通点は、タイトルや鈴木布美子によるキュレーションの意図が示すように、すべて〈未だ建築にならざるもの〉である点であり、本展覧会ではその表象の可能性の多様性が追求されたという。しかしそれと同時に、またそれ以上に、この展覧会から感じたのは、日本建築における「系譜」の強力さである。菊竹、伊東、妹島、西沢(立衛)という流れは、ご存知のように連綿と続く師匠─弟子関係でもある。もちろん、それぞれの弟子はひとりではないのだから、ほかにも「系譜」は描けるはずであるが、この流れは建築界の誰もが「直系」であると認めよう。そう思ってみていくと、菊竹の海上都市プロジェクトにおけるゆるやかなカーブが、西沢の描く曲線にまで、つまり1950年代からゼロ年代まで半世紀をかけて、進化しながら受け継がれているかのようにも見えてくる。ひとつの流れに属する複数の世代の建築家に、それぞれの共通点と変化を見ることができ、興味深い展覧会だった。なお隣の小部屋で、それぞれのプロジェクトに関するいくつかの映像を見ることができ、特に竣工当時のスカイハウスの映像を見ることができたのは貴重だった。

2009/08/28(金)(松田達)

建築以前・建築以後 展 余談

会期:2009/08/01~2009/08/29

小山登美夫ギャラリー 7F[東京都]

SANAA(妹島和世+西沢立衛)の「スイス連邦工科大学ローザンヌ校ロレックス・ラーニング・センター」を見たとき、一緒にいた学生の反応が象徴的だった。SANAAがほとんど誰かも知らなかったようであるが、「自分が最近見ている作品に似ている(から特に新しく思えなかった)」と言うのだ。その背景には、SANAAの表面的な模倣をしている学生が、特に多く現われてきており、しかもそれも第一世代ではなく、模倣を模倣している次の世代が現われてきているのかもしれない。おそらく、彼はそこでそれらすべてのオリジナルを見ているのだということに気付いていなかった。そもそもオリジナルとしてのSANAAのプロジェクトは、やはりコピーとまったく違う強度を持っていると、少なくとも筆者は感じたし、そのことに本来気付くべきだと思う。つまりオリジナルとは模倣できないものなのだというところを見るべきなのである。レム・コールハース/OMAの場合も、80年代末以降、多くの追随者が現われた。コールハースの場合、コピーのコピーは、オリジナルとまったく異なるものになっていたと言えるだろうし、真似したいのならコールハース本人を追いかける必要があるように思われる。しかしSANAAの場合、おそらくコピーを繰り返してもSANAA風になってしまう。そこがSANAAの感染力の強さであるし、コールハースの場合のオリジナルとコピーの問題系とは違う問題を提起しているように思われた。

2009/08/28(金)(松田達)

理科室の音楽、音楽室の理科 TUNE/LABORATORIUM

会期:2009/08/04~2009/08/30

京都芸術センター[京都府]

小学校・中学校の理科授業で学ぶ原理を取り入れ、光・音・電気などを発生させるインスタレーション作品を制作している少年少女科学クラブの展覧会。南北のギャラリーだけでなく、廊下や談話室となっている教室空間など、元小学校という会場の各所に、作品が展示されているのが面白い。不思議な音を発したり、発光する作品は、空想を楽しんだ懐かしい時代の感覚や、不思議な実験器具やホルマリン漬けの瓶が並ぶ理科室のワクワクする記憶を、鮮やかに蘇らせるタイムマシーンのようで心が躍る。

2009/08/29(土)(酒井千穂)

「音キキの会」音メグリ・ワークショップ

会期:2009/08/29

京都芸術センター[京都府]

ピアニストであり、音環境アドバイザー小松正史氏のナビゲートによってセンター内のさまざまな音を拾い集め、音の地図(サウンドマップ)をつくるというワークショップ。少年少女科学クラブの展覧会の関連イベントとして開催された。グループごとに行動し、同じ場所でそれぞれが描いたサウンドマップを披露。音と空間の緊密な関係や、他人との感覚の違い、それを理解することの楽しさなど、さまざまな発見と遊びに溢れた時間だった。対象は小学生以上ということだったが、行ってみたら参加していたのが大人ばかりだったのがちょっと残念。

2009/08/29(土)(酒井千穂)

2009年09月15日号の
artscapeレビュー