artscapeレビュー
飯田鉄「二つに分かれる小道のある庭」
2011年06月15日号
会期:2011/05/24~2011/05/29
トーテムポールフォトギャラリー[東京都]
飯田鉄のようなベテランの写真家の展示を見る場合、あらかじめ立てていた予想を裏切られることはあまりない。逆に今回のトーテムポールギャラリーでの個展のように、やや意表をつかれるような作品が並んでいると、とても得をした気分になる。長いキャリアを持つ写真家が、新たなチャレンジをしているのを見ることで勇気づけられるからだ。
飯田は昨年あたりから、たまたま手に入れたベッサ66という旧西独製のスプリングカメラを使って撮影をはじめた。このカメラのレンズにはやや欠陥があって、フィルムの周辺の光量が落ちてしまう。また蛇腹に小さな穴があいていて、きちんと塞いで使わないと光が漏れてしまうことがある。だが、そういうマイナスの要素は、得てして写真家の創造性を拡大することにつながるようだ。飯田のこのシリーズがまさにそれで、結果的に、写っている景色に奇妙なベールのような靄がかかったり、周辺が丸くカットされることで望遠鏡を逆さに覗いたような効果が生じたりしてきていた。
撮影されているのは、ほとんどが飯田の住む荻窪周辺の「家から1キロ以内」の場所だそうだが、あえて旧式のスプリングカメラを使うことで、見慣れた眺めがみずみずしい生気を取り戻しているように感じられる。また、彼はこれまで街や建物の写真を中心に発表してきたのだが、このシリーズには花や樹木などの自然の要素もかなりたくさん入ってきている。「二つに分かれる小道のある庭」というポエティックなタイトルも、特定の「庭」というわけではなく、「庭」を思わせる親密な雰囲気の光景が多く含まれているということのようだ。弾むような撮影の歓びが、じかに伝わってくる写真群だった。
2011/05/24(火)(飯沢耕太郎)