2019年09月15日号
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artscapeレビュー

吉田重信「臨在の海」

2011年06月15日号

会期:2011/05/10~2011/05/22

立体ギャラリー射手座[京都府]

1969年のオープン以来、映像表現やパフォーマンス、ライブなども含め、枠にとらわれないさまざまな表現を行なうアーティストの発表の場として活動を続けてきた立体ギャラリー射手座。今展を最後に閉廊となった。この最後を飾ったのは東日本大震災で自らも被災した福島県いわき市在住の作家、吉田重信の個展。照明はなく、片隅にほのかに赤い光が見えるだけの暗い会場にペットボトルに挿した1,000本の白い菊が並んでいた。中には入れないがドアを開けると、爽やかでありながら濃厚な花の香りが押し寄せてくるように感じられる。入口の傍らには片方だけの小さな泥だらけの靴が外へ向かう足跡のように置いてあり、周りに砂が散らばっている。よく見ると会場にも砂が敷き詰められていたのだが、これらはいわき市から採取してきたものだという。圧倒的な菊の香りと目の前の静粛な光景に胸が詰まるような気持ちにもなっていく。しかし、この祈りに満ちた鎮魂の空間の清らかな気配は、過去をしのぶ追憶というだけでなく未来へのまなざしとして感受できるものでもあった。最終日にはニッポン画家の山本太郎が能舞を披露し、たくさんの人々が集った地下のギャラリー。素晴らしい時間をこれまでありがとう。

2011/05/20(金)、2011/05/22(日)(酒井千穂)

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