2019年11月01日号
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artscapeレビュー

ウメサオタダオ展 未来を探検する知の道具

2012年04月01日号

会期:2011/12/21~2012/02/20

日本科学未来館[東京都]

民族学者の梅棹忠夫(1920-2010)の展覧会。京都に生まれ、アジアやアフリカ諸国へのフィールドワークを経由して、国立民族学博物館の創設に尽力し、やがて日本の文化行政のキーマンとなってゆく人生の軌跡を、数々の資料や書籍、道具、写真などで振り返った。梅棹の足取りを、簡素なベニヤの合板を円環状に組み立てることで表現した展示構成が、何よりすばらしい。そこに展示されていたのは、手書きのフィールドノートをはじめ、それらの情報を整理するための、いわゆる「京大式カード」など、いずれもコンピュータ時代以前の知的生産の現場を物語るアイテムばかり。その物体としての迫力のみならず、それらに滲み出ている肉体性の痕跡に瞠目させられる。京都を拠点にした長い活動を追っていくと、梅棹の活動領域が世界の周縁から政治の中枢へと転位していく過程が手に取るようにわかり、その変転に一抹の寂しさを禁じえないのは事実だとしても、その一方で梅棹の視線が(失明してもなお)つねに専門家の先の非専門家たち、つまりは私たちにまで及んでいたことも十分に理解できる。代表作『知的生産の技術』(岩波新書)は、インターネット時代になったいまとなっては、やや古色蒼然と見える印象は否めないにせよ、昨今の知的生産を貫く基本的な技術論としては依然として有効であるし、エッセイ「アマチュア思想家宣言」(『梅棹忠夫著作集』第12巻所収)は専門的な科学者の信用が失墜してしまった目下の転換期にこそ、広く読まれるべきテキストであると言える。これからの困難な時代を生きるには、梅棹忠夫が身につけていた身体的な知のありようが不可欠なのではないか。

2012/02/20(月)(福住廉)

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