2019年11月15日号
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artscapeレビュー

絵描きと戦争

2012年04月01日号

会期:2012/02/11~2012/03/02

渋谷オーディトリウム[東京都]

木村栄文監督による伝説的な映像作品。「フジタよ、眠れ」を含む同名の著作がある菊畑茂久馬が監修に加わり(『菊畑茂久馬著作集1』)、出演もした。絵描きにとって戦争とはなんだったのか。藤田嗣治と坂本繁二郎の対照的な足跡をたどりながら、この問いについて考えるドキュメンタリーだ。おもなインタビュアーはテレビドラマ《白い巨塔》(1978年)で知られる俳優の山本學で、木村栄文が聞き手を務めた部分もある。菊畑による軽妙な語り口をはじめ、山本學のオフショットをあえて挿入するなど、さりげなくユーモアを重視した編集によって、重厚長大になりがちな主題をじつにバランスよく見せている。いわゆる「戦争画」をめぐって交わされる美術関係者による証言の数々も、非常に率直に述べられており、建前の向こうに隠されがちな本音の言葉に、思わず吹き出してしまうことがあるほどだ。私たちが最も必要としているのは、「戦争画」についての学術的で専門的な研究とは別の次元で、「戦争画」について知り、話し合い、そして考えることができる、このように親しみやすく、わかりやすい映像なのだ。原子力という内なる敵との戦争が始まってしまったいま、新たな「戦争画」は描かれるのだろうか。藤田が正面から挑み、坂本が回避した戦争とは比べ物にならないほど抽象度が高まり、眼に見えることすらなくなってしまった戦争を、絵描きはどのように表現するのだろうか。そして、世界のすべてが可視化されうるほど視覚が強大であるにもかかわらず、肝心なことは闇に包まれているという大いなる逆説の時代において、木村栄文に匹敵する映像作品は現われるのだろうか。

2012/03/01(木)(福住廉)

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