artscapeレビュー

Q「ふくらはぎにおQをすえる~シャルピー編~」蒼いものかvol.3

2016年05月15日号

会期:2016/04/08~2016/04/10

pool桜台[東京都]

市原佐都子が主宰するQの新作上演。その前半。タイ人ということなのだろうか、東南アジア系の女性に扮した女の子がコミカルなポーズを交えながら観客に向けてしゃべりまくる。それが一言も分からない。おそらく食堂で働いていて、客とのいさかいを話題にしているようだ。動作のリズムだけではなく、言葉もリズミカルなので、細部が分からなくとも見入ってしまう。そもそも女の子がしゃべっている言葉は、ぼくが理解できないというよりは、市原が自由に創作したデタラメ語だろう。そうなると、この言語を理解できる人は一人もいないわけだ。誰一人として理解できない言葉で突き進んでいく演劇。まずこれに驚いた。徹底して観客に媚びない舞台はQの専売特許だけれど、観客が分からないなりに分かった気になる状態に陥るのも織り込み済みで、さて、この「分からないなりに分かる」という「間違いながら突き進むしかないコミュニケーション」という事態こそ、Qが前提にしている誠実な人間と人間の関係ということなのだろう。後半、もう一人の女(日本人)が入ってきて、ことは重層化する。アパレル関係の仕事で東南アジアに来ている潔癖症の彼女は、アジアの食べ物が口に合わないし、食堂の女の子が動物に見えてしまう。異文化との接触から起こる女の子の変容が丁寧に描かれる。生理的な身体レヴェルの反応をベースに、「今日の日本女性」の感性にデリケートに迫る力量は、今回も素晴らしかった。

2016/04/08(金)(木村覚)

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