artscapeレビュー
莫毅「莫毅:1987-89」
2016年05月15日号
会期:2016/04/09~2016/05/11
ZEN FOTO GALLERY[東京都]
本展は、チベット出身の中国の現代写真家、莫毅(Mo Yi)の、1980年代の軌跡を辿る連続展の「Part
II」として開催された。昨年の「Part I」では、彼の最初期のスナップショットのシリーズ「風景 父親」が紹介されたが、今回はそれに続く1987~89年の3シリーズを展示している。莫毅は中国が政治的、文化的に大きく変動していったこの時期、写真家としての試行錯誤とそこからの飛躍の時を迎えていた。「騒動」(1987)では、多重露光を積極的に用いて、視覚世界の解体をもくろんだ。「1m, 我身後的風景」(1988~89)では、カメラを頭の後ろにセットして、背後の群集に向けて5歩ごとにシャッターを切ったり、「自撮り棒」の元祖のような装置で自分自身を画面のなかに取り入れたスナップ撮影を試みたりした。「搖蕩的車廂(揺れ動くバス)」(1989)では、天安門事件直後の不安げなバスの車内の人々の姿を、自らの運命に重ねあわせて描き出している。
80点あまりの写真を壁にクリップでとめた展示は、莫毅本人の手によるものだが、この時期の作品を見ても、彼はむしろ現代美術の発想を取り込みつつ、ほかの写真家たちとは異なる、身体と表現を結びつける回路を模索し続けてきたことがわかる。その先駆的な仕事の重要性は、2000年代以降に中国国内でもようやく認められつつあるが、日本においてはまだ知名度の高い写真家とはいえないだろう。中国の現代写真を本格的に紹介する写真展が、美術館レベルでまだ一度も開催されたことがないという残念な状況ではあるが、莫毅の仕事もぜひまとまったかたちで見てみたい。
なお、展覧会にあわせて写真集『莫毅 1983-1989』(ZEN FOTO GALLERY)も刊行された。今回の展示や写真集出版が、ぜひ大規模な個展開催に向けた第一歩になるといいと思う。
2016/04/22(金)(飯沢耕太郎)