artscapeレビュー

クロダミサト「My Favorite Things」

2016年05月15日号

会期:2016/04/08~2016/04/24

神保町画廊[東京都]

クロダミサトが写真新世紀でグランプリを受賞したのは2009年だから、それから順調にキャリアを積み重ねてきたといえるだろう。同世代の女性を撮り続けている「沙和子」のシリーズも厚みを増してきたし、結婚や出産を経験して、写真家としての方向性が明確に定まりつつあるように見える。今回の神保町画廊での展示は、いくつかのシリーズを合体したミニ回顧展的な趣だったが、1点1点の作品が自立しつつ繋がっていて、なかなか見応えがあった。そのなかでも、特に新作の「Melt the ice cream」は、彼女が新しい世界に踏み込みつつあることを指し示すシリーズになるのではないかと思う。
「Melt the ice cream」というタイトルの作品は、すでに2015年に私家版の写真集としても刊行されている。この時は、クロダのインスタント写真に、京都造形芸術大学の同級生でもある河野裕麻のドローイングをプラスしていた。日常性と非日常性、即物的な光景と性的な場面が入り混じるスタイルは踏襲されているが、今回展示されたヴァージョンでは、よりクリアーに眼前の世界を再構築していこうとする志向が強まっている。ゲイの男性たちの性行為の場面や、太り気味の女性のヌードなどに、金魚やエビなどのイメージが加わって、シリーズとしてさらに成長しつつある様子がうかがえた。「沙和子」のような被写体を限定したセッションとは違う、より重層的な広がりと膨らみを備えた写真のあり方が、少しずつかたちをとりつつあるように思える。

2016/04/13(水)(飯沢耕太郎)

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