artscapeレビュー
still moving on the terrace
2016年05月15日号
会期:2016/04/16~2016/05/29
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
数年後、JR京都駅の東側エリアへの移転が予定されている京都市立芸術大学。本展は「将来の移転のための予行演習」として、作品/作品以外のさまざまな物品の「梱包」と「移動」を行なうとともに、制度的な空間の「反転」「誤読」を仕掛ける試みである。
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAは、市街中心から離れた桂地区にある大学と異なり、京都市内中心部にあるサテライト的な展示施設である。本展では、通常のギャラリー入り口が封鎖された代わりに、事務スペースから入場して、バックヤードを通り抜け、倉庫の扉から通常の展示室へと至る導線が仕掛けられている。そこには、大学から運び込まれた無価値な石や備品が、丁寧に「梱包」された状態で置かれている。価値の反転は、展示室とバックヤードの空間的反転へと拡張し、ギャラリー空間には備品や展示台、カタログのストックなどが置かれ、「作品」は本棚や脚立などとともに薄暗いバックヤードに配置される。「学長室」の札が貼られたエレベーター内は、巨大な「工具箱」としてドリルや定規が壁に掛かる。ギャラリー内には仮設性を強調する小部屋がつくられ、大学所蔵の古美術品や民俗学資料が、入れ子状の空間に展示される。
このように本展では、「移動」という営為が、単なる物理的な移動に加えて、固定化された既存の秩序や価値観の撹乱・転倒を引き起こすという事態そのものを、建物全体を使って出現させている。では、移転の「本番」では、芸術大学という制度や機能に対して、どのように積極的な転換や読み替えが図られることになるのだろうか。現在の実践が、未来を動かす可能性となりうること。それは創造的な批評性のひとつの徴である。本展が、一過性のイベント的な試みに終わらず、未来の更新へとつながることを願う。
2016/04/17(日)(高嶋慈)