artscapeレビュー

中里和人「惑星 Night in Earth 」

2016年05月15日号

会期:2016/03/21~2016/04/02

巷房[東京都]

中里和人の新シリーズ「惑星」は高知県、和歌山県、三重県、千葉県など、黒潮の流れに沿うようにして、日本の沿岸部にカメラを向けている。写っているのは、夜の月明かりの下、波が打ち寄せる岩場の光景だ。それらは、たしかに「遥か遠くの宇宙を観測する望遠鏡や人工衛星から」送られてくる「新しい惑星の姿」のようでもある。
中里は代表作の『小屋の肖像』(メディアファクトリー、2000年)のように、これまで人間の営みがなんらかのかたちで刻みつけられた風景を撮影し続けてきた。ところが今回の「惑星」には人の気配は感じられず、無機的かつ即物的な眺めが定着されている。中里は1978年に法政大学文学部地理学科を卒業しているから、岩盤や地層を意識することは特に不自然ではないが、新たな方向に踏み出していこうとする意欲作といえるだろう。とはいえ、そのような「裸の惑星空間」は、奇妙なことにどこか懐かしい「親近感」も感じさせる。もしかすると、波が打ち寄せる夜の海辺の眺めが、われわれの集合的な無意識に働きかけるのかもしれない。太古の昔、ふと住居の海辺の洞窟を出ると、こんな光景が目の前に広がっていたのではないかとも思ってしまうのだ。
今回の展示は、東京・銀座、奥野ビルのギャラリー巷房の3階、地下1階、階段下のスペースを使って行なわれた。3階と地下1階のギャラリースペースでは、大小の写真プリント20点が額装されて並んでいたが、階段下では映像作品をプロジェクションしていた。静止画像と動画を併置することはそれほど珍しくはなくなってきたが、中里のような風景中心の写真家にとっては、やはり新たなチャレンジと言えるだろう。画像と音響効果(波の音、ノイズ系の音楽)がうまく融合して、効果的なインスタレーションとして成立していたと思う。

2016/03/21(月)(飯沢耕太郎)

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