2022年10月01日号
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artscapeレビュー

宮本隆司「草・虫・海」

2009年10月15日号

会期:2009/09/18~2009/10/17

TARO NASU[東京都]

宮本隆司は、ある日、勤務先の神戸芸術工科大学のキャンバスの地面に、ウグイスとスズメバチの死骸が落ちているのに気づいた。それを拾い上げたとき、ふと印画紙の上に置いて光を当て、フォトグラム作品にすることを思いつく。
夏の間、セミ、蝶、蟻、蚊などの昆虫の死骸を集めては、フォトグラムを作り続けた。縦位置の画面に虫の影が垂直に並べられ、どこかモニュメントを思わせる雰囲気を醸し出している。
「Kobe 2008 bugs 」と名づけられたこのシリーズが、1995年の阪神・淡路大震災の記憶を踏まえた鎮魂のイメージとして作られているのは明らかだろう。それは同時に展示されていたフォトグラム作品「Grass」が、同じ年に起こったもうひとつの大きな出来事、オウム真理教のサティアン跡に生えていた草を印画紙の上に置いて制作されていることからもわかる。歴史を個人的な営みによって照射しようとする視点が、これらの作品にはある。
とはいえ、そのやり方は、決して声高で押し付けがましいものではなく、慎ましやかでさりげなく、しかもチャーミングだ。虫たちが原寸大の大きさに留まっていること(蟻や蚊はほんの小さな点だ)と、フォトグラムの自然のフォルムを忠実に、だが実に細やかに写しとる力が相まって、静かな、説得力のある祈りの形に昇華されている。宮本にとっては、大作の間の息継ぎのような仕事だが、これはこれで魅力的だった。

2009/09/18(金)(飯沢耕太郎)

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