artscapeレビュー

米田知子「Rivers become oceans」

2009年10月15日号

会期:2009/09/05~2009/10/03

ShugoArts[東京都]

米田知子の、バングラディッシュ・ビエンナーレ(2008)出品作からピックアップした新作展。南の国の風景や人物を題材にしているためだろうか。これまでの彼女の作品とはやや肌合いが違う。
1971年の激しい独立戦争の記憶が作品の背景にあり、戦争やサボタージュに参加した市民のポートレート、現在のダッカで撮影されたスナップなどが展示されている。そして、それらを包み込み、押し流していく自然の力の象徴として水や河のイメージが配置される。これまでの作品のように、練り上げられたコンセプトによって、細部まで緊張感を保ってきっちりと構成されている写真はむしろ少なく、ゆるく柔らかな空気感があらわれているものが多い。インクジェットプリントを、壁に直接貼付けた展示については、賛否両論があるだろう。たしかに作品一点一点の強度は落ちるが、全体としては気持ちよく心を満たす眺めになっている。バングラディッシュ・ビエンナーレの展示風景の資料写真を見ると、もっと写真の数が多く、壁全面にちらばっているようなインスタレーションだった。ギャラリーの天井がやや低いので、限定された数しか展示できなかったのが残念だ。昨年の原美術館での回顧的な展覧会を通過して、米田の関心の幅が、地域の枠を超えてさらに広がりつつあることがよくわかった。

2009/09/17(木)(飯沢耕太郎)

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