artscapeレビュー

2011年08月01日号のレビュー/プレビュー

竹原あき子『縞のミステリー』

著者:竹原あき子
発行日:2011年6月
発行:光人社
価格:2,310円
サイズ:222ページ

工業デザイナー・竹原あき子氏の近著『縞のミステリー』は、時空を自由に行き来しながら縦横無尽に、「縞」の本性と歴史について語り尽くす。いまや日常で見慣れた「ストライプ」は、かつてエキゾティックなものだった。桃山時代に、南蛮貿易でインドや東南アジアから輸入された木綿の縞織物は「サントメ」と呼ばれて日本人に好まれ、やがては「唐桟(とうざん)」として日本各地で生産されるようになった。冒頭の舞台はそのインド南東部のマドラスだ。それから、産業・デザイン・歴史をとおして縞文様をめぐる旅が始まる。ヨーロッパとアジア、さらにはアフリカ・イスラムと「日本の縞」はどのように異なり、この国の歴代で愛し育てられ変貌を遂げてきたのか。「一瞬にして際立つ縞、コントラストのある縞の魔的な力は、見えないものを見えるものにし、この人物は普通でないと社会に差し出す。パストゥローの『悪魔の布』は、そんな縞の悪魔的な性格を強調してやまなかった。だがヨーロッパの外では縞に反社会的な意味はなかった」と著者は語りつつ、「日本の縞は、スキャンダルでもなければ、悪魔の布でもない。だが九鬼周造が語るように縞は、日本人にとって粋の極致だったのだろうか」と問いを投げ掛ける。縞文様とはロマンだ。文様は──それが幾何学的な文様であれ──物語を、私たちの住む世界がいかにして築かれてきたかについて密やかに語る。本書を読めば、著者の眼を通じて、日常にいながらにして世界中を訪れた気分になれる。[竹内有子]

2011/07/02(土)(SYNK)

柳澤顕 展「Painting as a System」

会期:2011/07/02~2011/07/30

ARTCOURT Gallery[大阪府]

コンピューターを用いてイメージを構築しながら、同時に自身の思考や身体性の介在が感じられる独自の平面表現を模索している柳澤顕。具体的には、コンピューターでつくり上げたイメージをカッティングシートで出力し、パネルに貼ったり着彩することで出来上がる作品だ。本展では、昨年の「VOCA展」出品作以外はすべて新作の14点を出品。作品を超えて会場壁面まで浸食する大作もあり、現在の充実ぶりが伝わる展覧会となった。また、制作過程の記録映像を上映していたのも、作品を理解するうえで大いに役立った。

2011/07/02(土)(小吹隆文)

ジョセフ・クーデルカ プラハ1968

会期:2011/05/14~2011/07/18

東京都写真美術館[東京都]

1968年8月20日、当時のソ連が中心となったワルシャワ条約機構軍がチェコスロヴァキアの国内に侵攻し、全土を掌握した。本展は、プラハ市民による抵抗の模様を記録した写真展。路上で歩哨に立つ兵士を取り囲む婦人、大通りを進む戦車の隊列、そして群集で埋め尽くされた広場。クーデルカのモノクロ写真は、それらが紛うことなく写真であるにもかかわらず、いやだからこそというべきか、抗議の肉声や戦車の排気音が聞こえてくるように感じられるし、群集の熱を帯びた人いきれすら体感できる。まさしくストリートの写真である。とりわけ、鑑賞者の想像力を大いに刺激したのが、市民と兵士のあいだで交わされた言葉の数々だ。むろん、そこで具体的にどんな言葉がどんな言語で交換されたのか知るよしもない。しかし、被写体に極端に近接した写真からは、そこでさまざまな言葉が生み出され、戦車の兵士に届けられている様子が明らかにうかがえる。「圧倒的で無力な戦車と、無力で圧倒的な言葉」(加藤周一「言葉と戦車」)の対峙を的確にとらえた写真である。

2011/07/02(金)(福住廉)

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ジャケット・デザイン50-70's──ジャケットでめぐる昭和

会期:2011/05/21~2011/07/18

芦屋市立美術博物館[兵庫県]

本展は、ラジオ関西が所有する1950-70年代のレコード・ジャケット(海外アーティストのみ)を展覧したもの。会場には音楽が流れ、約200点におよぶ戦後以降のLP盤ジャケットを一堂に見ることができるから、そのときに青春時代を送った人々は、特に楽しめるだろう。が、いささかフラストレーションが残る感じは否めない。「ジャケット・デザイン」の「なににスポットを当てたいのか」という主催者の意図がはっきりしないからだ。副題にあるように日本における昭和の文化を浮かび上がらせたいのか、またはジャケットの芸術性を問題にしたいのか、あるいは同時代における西欧の社会的・文化的表象としての「デザイン」なのか? とはいえ展示品の中には、興味深いジャケットのデザインがいくつかあった。ビートルズの初期盤に見られるようなポートレイト的・没個性的な表現から、《サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド》(デザイン=ピーター・ブレイクとジャン・ハワース、1967)のサイケデリックで個性的なジャケットへの変遷。また、ローリング・ストーンズの《スティッキー・フィンガーズ》(1971)では、アンディ・ウォーホルがジャケットに実物の「ジッパー」を取り付けるという斬新なデザインを試みている。そのほか、横尾忠則が手掛けたサンタナの《ロータスの伝説》(1974)など。これらに関しては、ポップ・アート/ポップ・デザインの文脈や、若者文化などに関する社会文化的視点を加えた詳しい解説パネルを付せば、観者の理解がより増すだろう。指定管理者の問題以降、館の運営に試行錯誤が続く芦屋市立美術博物館。今後の展覧会活動の充実に期待を寄せつつ、応援をしてゆきたい。[竹内有子]

2011/07/03(日)(SYNK)

WHITE──桑山忠明 大阪プロジェクト

会期:2011/06/18~2011/09/19

国立国際美術館[大阪府]

ニューヨークを拠点に活動中の作家、桑山忠明の新作を中心に構成された展覧会。1970年代には無機的な物質性とモノクロームの色面に注目し、1990年代からは同一形体のユニットが連続する空間表現を展開するなど、桑山は意味や感情を極限まで排除した絵画で、独自の表現を確立してきた。「WHITE──桑山忠明 大阪プロジェクト」と名付けられた本展は1990年代以後の実験的空間表現の延長上にあるもの。三つに分かれた白壁の展示室に白一色の絵画を並べ、空間ごと作品化しているという。飽きそうで飽きない、不思議な空間(作品)が体験できる。[金相美]

2011/07/03(日)(SYNK)

2011年08月01日号の
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