artscapeレビュー
2014年11月15日号のレビュー/プレビュー
仙厓 と鍋島─美と向き合う、美を愉しむ─
会期:2014/10/04~2014/12/14
細見美術館[京都府]
ただならぬ気配の脱力水墨画で知られる仙厓 の、円相もイイ。禅の書画で知られる一筆書きの「○」だが、ぼこぼこしてまんじゅうのよう、かと思えば、円の横には「これくふて御茶まひれ」とある。書いた人、その教えのおおらかさを体現しているわけですね。
2014/10/25(土)(松永大地)
センティール・ラ・セゾン千秋公園
[秋田県秋田市]
竣工:2013年
秋田駅の近くに納谷建築設計事務所が手がけたセンティール・ラ・セゾン(2013)を見学する。北海道で展開し、本州に進出したウエディングの会社が、今年オープンさせたものだ。考えてみると、建築家がチャペルだけでなく、施設全体の空間構成をデザインするケースは意外とめずらしいかもしれない(ただし、飲食エリアなどの内装は別のインテリアデザイナーが担当)。町に向かって、頂部のチャペルに至る斜めの大階段の空間を壁から張りだしつつ、そこをガラス張りにすることで、外部に祝祭の雰囲気を伝える。またバンケットでは、新郎新婦が登場する高所にたってみたが、壮観な眺めだった。
2014/10/25(土)(五十嵐太郎)
野村恵子「赤い水」
会期:2014/10/22~2014/11/04
銀座ニコンサロン[東京都]
野村恵子の『Soul Blue ─此岸の日々』(shilverbooks、2012年)はいい写真集だった。折に触れてヌードを撮影してきた女性たちとのかかわりを縦糸に、父の死を含む日常の情景を横糸にして織り上げられた、叙事詩を思わせるイメージの連なりは、野村がデビュー作の『Deep South』(リトルモア、1999年)以来積み上げてきた写真の表現が、ほぼ完成の域に達したことを示していた。今回の展示は、その『Soul Blue』の達成を踏まえて、次のステージに向かうという意志表示を込めたものといえるだろう。
1998年に沖縄で撮影した「Kozue」という女性モデルは、いまは福井に住み、刺青師として活動している。彼女だけではなく、同性のモデルたちの生に寄り添いつつ、撮影をくり返していくことで、イメージの厚みがさらに増しつつある。今回の「赤い水」では、それに加えて、沖縄・今帰仁出身の野村の母親の、6歳と16歳の時のポートレートの複写が重要な意味を持っているように思える。つまり、野村自身を含めた女性たちの「身体という器に湛えられた赤い水」、つまり血の巡り、血の流れに象徴される結びつきが、より強く意識されはじめているのだ。
だが「ここ1年で撮影した写真が7割」という説明を聞いても、すぐには納得できないのはなぜだろうか。どうしても旧作が多いように見えてしまうのだ。おそらく、『Soul Blue 』とそれ以後の写真の選択と構成のあり方、つまりその「文体」があまり変わっていないからだろう。彼女が次の一歩を踏み出すためには、写真作品を構築していく「文体」そのものを大きく変えて行かなければならないのではないかと強く感じた。どうやら、野村も写真作家としてさらに飛躍していくための正念場を迎えつつあるように思う。
なお本展は12月11日~17日に大阪ニコンサロンに巡回する。
2014/10/26(日)(飯沢耕太郎)
荒木経惟「往生写集──東ノ空・PARADISE」
会期:2014/10/22~2014/12/25
資生堂ギャラリー[東京都]
豊田市美術館、新潟市美術館と続いた荒木経惟の連続展の掉尾を飾るのが、この「往生写集──東ノ空・PARADISE(正式表記は「P」が反転)」。全力疾走してきた今年の荒木の活動を締めくくるのにふさわしい力作(すべて2014年に撮影)が、東京・銀座の資生堂ギャラリーの会場に並んでいた。
「東ノ空」(13点)は自宅のマンションから毎朝、夜明けの空を撮り続けている連作である。荒木の住む東京都世田谷区から見て東の方向には、いうまでもなく福島と東日本大震災の被災地がある。「空」は荒木にとっての根源的なテーマの一つであり、そのきっかけになったのは、1990年の愛妻、陽子の死だった。そのことからもわかるように、「空」の彼方には他界のイメージが投影されていることが多い。この作品の沈鬱なトーンにも、死者たちへの鎮魂の意味合いが込められているのだろう。
「PARADISE」(55点)は、これまで何度も撮影されてきた「楽園」シリーズのヴァリエーションである。例によって、枯れかけた花に人形(フィギュア)をちりばめ、ビザールでエロティックな箱庭のような空間を丁寧に構築している。人形に施された血のようなペインティングを見ると、ここでも死の影が画面全体を色濃く覆いはじめているようだ。
もう一つの新作が「銀座」(13点)であり、歩行者天国に群れ集う人々を撮影している。そういえば、荒木は電通に在職していた1960年代に、よく銀座に出かけて通行人をスナップしていた。だが今回の連作は、獲物に飛びかかるようにシャッターを切っていたその頃の写真と比較すると、肩の力を抜き、すっと受けとめるように群衆にカメラを向けている。後ろ姿とややブレ気味の人物が多い写真群に、どこか諦念にも似た雰囲気を感じてしまうのだ。
荒木の体調はあまりよくないと聞く。当人にその気はないかもしれないが、しばし休息してもいいのではないかと思う。
2014/10/26(日)(飯沢耕太郎)
まち歩き(シルク遺産見学会)
会期:2014/10/26
旧三井物産横浜支店倉庫[神奈川県]
解体問題が起きている旧三井物産横浜支店倉庫の「外観」見学会に参加した(おそらく、所有者が内部の立入りを認めないため)。堀勇良が講師として解説を行なう。明治末の先駆的な建築ゆえに、壁が煉瓦造、内部の床は木造、柱と屋根はRC造という過渡期のハイブリッドな構造だ。外観は崩した古典主義が少し入る。ただ、外壁は薄く白い化粧煉瓦タイル張りのために、赤レンガ萌えにこの魅力が伝わりにくいのが、もったいない。
2014/10/26(日)(五十嵐太郎)