artscapeレビュー

2009年08月15日号のレビュー/プレビュー

京都学「前衛都市・モダニズムの京都」1895 1930

会期:2009.06.09~2009.07.20

京都国立近代美術館[京都府]

近代の京都の文化を「前衛都市」という視点から考察する展覧会。1885年の『日出新聞』創刊と琵琶湖疎水工事の着工、はじめて裸体画を公開した黒田清輝や、浅井忠、新進の竹内栖鳳らが出品した1895年開催の「第四回内国勧業博覧会」、化学や七宝、工芸を指導したゴットフリート・ワグネルの仕事、「日本映画の父」と呼ばれる牧野省三が設立した映画プロダクションなど、4つのテーマで構成されていた。当時の国情が色濃く反映された博覧会とその様子、芸術表現への波紋など、それぞれの切り口が複層的に時代のイメージを伝えていて興味深いものだった。1階のロビーには、復活プロジェクトによって復元された大正時代の輸入電気自動車「デトロイト号」も展示。素晴らしかったのは10日、11日に開催された映画上映会。1920年代の作品を中心に、10日はギター、三味線、フルートの演奏と活弁つき、11日はピアノ伴奏つきで開催された。どちらかというと会場の展示は地味なイメージだったが、「京都のモダニズム」の雰囲気を味わえる工夫や試みがあちこちで感じられる展覧会だった。

2009/07/10(金)、2009/07/11(土)(酒井千穂)

廣見恵子「DRAG QUEEN ジャックス・キャバレーの夜」

会期:2009/07/03~2009/07/31

gallery bauhaus[東京都]

廣見恵子は1980年生まれ。1999年に渡米し、大学、大学院でフォト・ジャーナリズムを専攻した。今回が日本での初個展である。撮影のテーマは、ボストンのキャバレーで夜ごとパフォーマンスをおこなっているドラッグ・クィーンたち(女装のゲイ)。日本でも風俗として定着しつつあるが、やはり本場は迫力が違う。特に毒蛾を思わせるけばけばしい化粧と衣装で、過剰に女性性を強調する黒人のドラッグ・クィーンの強烈な存在感は、圧倒的としかいいようがない。
彼女のコントラストの強いモノクロームのプリントは抑制が利いており、被写体との距離感もきちんと保たれている。特に広角レンズ(16~42ミリ)の画角の広さと被写界深度の深さを巧みに利用した楽屋裏の群像は、ひしめき合う肉体とモノの連なり具合、重なり具合が絶妙で見応えがある。廣見がアメリカの正統的なドキュメンタリー・フォトの方法論を、しっかりと学び取った成果がよくあらわれているといえそうだ。逆にいえば、被写体との関係がどこか優等生的で、こだわりや危うさがあまり感じられないともいえる。もう少し被写体との距離を詰めて、身についた撮影やプリントの手法を踏み外したシリーズを見てみたい気もする。

2009/07/11(土)(飯沢耕太郎)

野村仁「変化する相──時・場・身体」

会期:2009.05.27~2009.07.27

国立新美術館[東京都]

国立新美術館のこぎれいなホワイトキューブの空間に展示すると、どんな前衛芸術も標本ぽく見えてしまうが、とりわけ野村仁の“理科系”作品にはそれが当てはまる。ただしそれは欠点としてではなく、むしろ長所としてだ。だとすれば、いちど美術館ではなく博物館や科学技術館で発表したらどうだろう。はまりすぎか。

2009/07/11(土)(村田真)

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山添潤 展

会期:2009.06.30~2009.07.12

アートスペース虹[京都府]

作家のコメントには「石を彫ることで生まれるある気配を求めている」と記されていたが、以前見た作品にも今回の新作にも、その静かな迫力は充分に表われていた。大きな石の塊には素材に向き合う作家の愚直な時間の集積と、せめぎ合いの痕跡が刻まれた作品。静謐で重量感たっぷりの存在感と観る者に媚びない美しさを放っている。まるで作家自身かあるいはその身体のように見えてくるから不思議だ。

2009/07/11(土)(酒井千穂)

半熟目玉『どうくつ』

会期:2009.07.11~2009.07.12

立体ギャラリー射手座[京都府]

川崎歩による演出、振付けのダンス上演。いでたちも動きもまったく異なるふたりの男が出口のない洞窟で空腹になってしまうという表現。小銭が詰まった靴下を両手に持つ男が、交互にチャリン、チャリンと床を打ちながら登場する最初の場面からインパクト大。ダンスには馴染みがないので、二人の動作から、物語やそれらが象徴するものを連想するのは難しい気がしていたが、小銭が途中でばらまかれて靴下がからっぽになってしまったり、ふたりのまったく異なる「空腹」の動作を見ていると、蠕動する胃腸と洞窟のイメージが同時に浮かんできて、いつのまにか「空腹」と「洞窟」が頭の中でリンクしていた。普段は絵画や立体、映像作品などが発表されているギャラリー空間だが、こんな夏休みの特別企画(?)もまた新鮮。8月30日(日)にも第二回目の公演が予定されている。記憶の回廊を踊りながら辿り、映像的に記憶の再生を試みるという『回廊』。振付け、演出、出演は川崎歩。ぜひまた見たい。

2009/07/11(土)(酒井千穂)

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