artscapeレビュー

2009年08月15日号のレビュー/プレビュー

山田幸司『VectorWorksで学ぶ ラクラク建築パース作成マニュアル』

発行所:エクスナレッジ

発行日:2009年7月15日

3DCADの使い手として知られる建築家山田幸司によるVectorWorksのマニュアル本。VectorWorksは二次元及び三次元のデータ作成が可能なCADソフトウェアであるが、一般的には二次元CADとして用いている人が多いかもしれない。しかし本書はVectorWorksの三次元CADとしての側面に焦点を当て、パース作成を主な目的とした本である。実はこの種の本は多くはない。二次元だけだったり、二次元と三次元の両方を扱った教本は多いが、三次元だけに絞った本というのはかなり少ないはずである。実際、二次元から三次元に進む段階で足踏みをしてしまう建築学生や建築関係者は多いであろう。そのため二次元CADとしてのVectorWorksをマスターし、3Dに挑戦したいがハードルの高さを感じている人には、うってつけのマニュアル本と言えるだろう。3Dモデリングの基本にはじまり、建築物のボリュームの作り方、ディテールの仕上げ方、テクスチャーなどリアリティの出し方へと進む。さらに、著者独自の山田流モデリングテクニックやアニメーション作成にも触れている。同種の本に比べ、特に作業時ディスプレイの図版が多く、順を追って3Dをマスターできるので親切である。
さらに他の教本と違う重要な点がある。本書にはかなり直感的な記述が含まれており、マニュアル本であるのに淡々とした印象がない。むしろ読み始めると何故か楽しくなってくる記述に出くわす、ひと味違うマニュアル本である。

2009/07/24(金)(松田達)

鈴木涼子「Recent Works ANIKORA-Kawaii」

会期:2009/07/07~2009/07/31

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

「ジェンダーをテーマに、人間の欲望や社会の歪みに焦点をあてた作品」を制作してきた鈴木涼子。「ANIKORA」のシリーズは、アニメ・キャラのフィギュア人形のボディに、自分自身の顔を画像合成で繋ぎ合わせるという意表をついた発想を展開する。フィギュアの身体パーツは若い男性の性的な欲望の投影であり、畸形的に巨大化した胸とお尻、極端に細い腰と長い脚で作られている。そのエロティックな媚態で、あくまでも受動的なポーズをとる人形に、典型的な日本人顔の鈴木の頭部を接続することで、どうにも身もふたもないズレが生じてくる。そのあたりの批評的でシニカルな笑いの取り方が、このシリーズの見所といえるだろう。
ところが今回の「ANIKORA-Kawaii」では、顔にもかなりの修整が施されていることで、他のパーツとの繋がり具合にあまり違和感がなくなってしまっていた。これ以上滑らかに接続してしまうと、ミイラ取りがミイラになって、ただの「Kawaii」作品としてしか見られないのではないかと心配になってしまうほどだ。プリントだけでなく、液晶ビュアーで見せるという新しい試みの作品も2点展示されていた。ウィンクしたり、画像の一部が微妙に揺らいだりする「動画」的な要素と、静止画像との組み合わせは、さらに大きく展開していく可能性がありそうだ。

2009/07/25(土)(飯沢耕太郎)

寺島みどり展──見えていた風景

会期:2009.06.21~2009.07.26

奈義町現代美術館ギャラリー[岡山県]

制作の方向性が大きく変わった印象だった最近作を含め、過去からの作品を総括して展示した寺島みどりの個展。記憶の層のように幾重にも塗り重ねられ、描き込まれた色面は、時には息苦しくなるほど圧倒的な雰囲気をもち、ときにはどこまでも穏やかな静寂を感じさせる。そこはかとなく、というと根拠も説得力もないようだが、得体のしれない強烈な力が画面から感じられる寺島の作品にいつも気持ちが揺さぶられる。そのときどきによって「見える」風景(やその印象)は少しずつ異なるのだけれど、まるで霧が晴れるときに風景が一気に広がってくるような迫力はどの作品にも共通している。こんなにたくさんの点数を一度に見たのも初めてだったが、作品制作の変遷もうかがえる展示のバランスもよく、見応えのある内容で、高揚感もなかなか退かなかった。奈義町現代美術館は遠いけれど、見ることができて本当によかった!

2009/07/25(土)(酒井千穂)

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D.I.G Architects《M-House》

[愛知県]

竣工:2009年

D.I.G Architects(吉村昭範+吉村真基)による住宅。5m×25mの短冊状の敷地を、さらに細く縦に分けるようなプランニング。一階は土間が拡張したもので、二手に分かれる路地的な空間が、奥の和室横の階段部分でつながる。奥まで土足で歩くことができる町家を継承したような空間。二階も並行する二つの通路があり、折り返してエントランス上部に位置する寝室でつながる。シャワー室を横断する動線、鋭角の隙間から階下に落ちる光など、アクロバティックなプランニングの妙が光る。住宅全体が廊下であるともいえ、青木淳の言葉で言えば「動線体」のような空間である住宅。

2009/07/25(土)(松田達)

N+スクール vol.13 青井哲人「台湾都市の解剖学~私のフィールドワークから~」

会期:2009/07/25

南洋堂書店[東京都]

神田の南洋堂書店4階にあるN+(エヌプラス)ギャラリーにて、不定期で連続的にN+スクールというイベントが開催されている(一階の店舗内で開かれる場合もある)。最近は主に海外での活動経験がある建築関係者によってスライドレクチャーが行われている。定員30人程度の比較的小規模の会であり、レクチャラーと観客との距離が近いのが特徴である。2001年にはじまったもので、2007年からのシリーズでは、田路貴浩氏(京都大学)、南泰裕氏(国士舘大学)、樫原徹氏(デザイン・ヌーブ)、新宮岳氏(南洋堂書店)と筆者が企画側として参加している。この連続イベントを支えているのは南洋堂店主の荒田哲史氏であり、建築について幅広く考えることのできる良質な場が継続して生まれている。
第13回目は明治大学准教授の青井哲人氏による台湾研究のレクチャー。「台湾都市の解剖学~私のフィールドワークから~」と題されたもので、台湾をより広域のオーストロネシア語族の分布の中で捉えつつ、亭仔脚(ていしきゃく)をはじめとする台湾の都市建築要素の複雑な影響関係について紹介。また彰化という街の都市形態を自転車を使ってのフィールドワークと聞き込み調査によって追ったことにも触れた。都市が生き延びるためにそこに住む人間を使っているのではないかという、都市の形態を決定する主体が都市に移った、都市形象主義(アーバンモルフィズム)とも言うべき都市論の新たな仮説が斬新だった。

2009/07/25(土)(松田達)

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