artscapeレビュー
2009年08月15日号のレビュー/プレビュー
荒木経惟「POLART 6000」
会期:2009/07/17~2009/08/20
RAT HOLE GALLERY[東京都]
まずはその量に圧倒される。タイトルが示すように、6,000枚のポラロイド写真(実際には少し少ないようだが)が壁にずらっと並ぶ様は壮観としかいいようがない。特に27×97=2619枚(!)が全面にびっしりと貼られた一番大きな壁は、思わず笑ってしまうようなとんでもない迫力である。派手好み、お祭り好きの荒木経惟の面目躍如というべき展示だ。
その祝祭性は写っている被写体にまで及んでいる。ポラロイドでヌードといえば、普通はやや秘密めいた淫微なイメージを想い描くだろう。ポラロイドは現像や焼き付けを業者に出す必要がないので、「危ない」写真を撮るのによく使われてきた。それに加えてフィルムの表面の、つるつるした人工皮膚を思わせる質感そのものもエロティックだ。だが荒木の「POLART」に登場してくるヌードの女性たちは、ひたすら晴れやかでお目出度い。裸体だけでなく、花や食事のようなオブジェも、日々撮り続けられているスナップも、膨大に増殖していくイメージ群は、あっけらかんとした開放的な生命力を発しつつ、大声で呼び交しているように見える。
そのうちの幾つかは、20~100枚くらいの単位でグリッド状に構成されて展示してある。その組み合わせ方が、いかにも荒木らしくウィットと奇想に飛んでいる。それぞれの女性モデルごとに一まとめにした組もあり、「明太子」「パンと牡蠣」のような男性器、女性器への見立ての妙を発揮したシリーズ、ポラロイド・フィルムの表面に直接絵具で書き込んだ「花画」「闇夜2射精」など、抽象画のような作品もある。ポラロイドというシステムの可能性を、ほぼ極限まで、出し惜しみせずに開陳するやり方も、荒木ならではというべきだろう。表現者としての底力に脱帽。まだまだやんちゃな創作意欲は衰えを見せていないようだ。
2009/07/19(日)(飯沢耕太郎)
INTERVALLO 幕間 展
会期:2009.06.26~2009.08.02
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
小池一子が選んだコロンバ・レッディ、クリスティーネ・ビルクレ、和井内京子の3人のファッションデザイン展。ついこないだまでここに並んでいた原口典之の重厚な作品群が、奇跡的にこの空間とマッチしていたのに比べ、こんどのファッション展は空間に負けてしまうのではないかと心配したが、どうやら杞憂に終わったようだ。しなやかな「女の手仕事」は、硬質な原口作品とはまったく違った作法で空間に溶け込んでいたからだ。
2009/07/19(日)(村田真)
白井美穂 展/エリカ・タン展
会期:2009.06.26~2009.08.02
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
イギリスのサンダーランド大学とBankARTとのアーティスト・イン・レジデンス交流事業。昨夏、BankARTから白井美穂をサンダーランド大学に送り、その逆にイギリスからエリカ・タンがやってきて、それぞれ2カ月間滞在・制作した。その日本での発表展。なぜこの時期に両国の交流事業なのかといえば、昨年が日英修好通商条約調印150周年だったから。したがってレジデンスの制作テーマも、日英関係や通商条約に関してという枠組みがあったようだ。白井は150年前に日本の使節団が初めてイギリスを訪れたときの驚愕と混乱を、『不思議の国のアリス』の「気狂いティーパーティー」になぞらえた映画『永遠の午後』を制作。タンは、さまざまな人に描いてもらった富士山の絵を素材に作品をつくった。まあテーマなんぞ、あってなきがごとしくらいが一番だ。
2009/07/19(日)(村田真)
東松照明デジタル写真ワークショップ沖縄 実習生5人+2人展
会期:2009/07/10~2009/07/24
おもろまち沖縄タイムス1階ギャラリー[沖縄県]
東松照明は、いま撮影からプリントまで完全にデジタルに移行してしまった。このあたりの徹底ぶりがいかにも彼らしいのだが、今年4月から「デジタル写真ワークショップ」というプロジェクトを開始した。単純にデジタルカメラやプリンターの使い方というだけではなく、「これまで60年間蓄積してきた写真のノウハウ」を新しい世代に伝えようという意欲的な試みである。29歳以下という条件を付けて募集したところ、30人あまりの応募があり、面接と作品審査を経て5人が残った。今回の展示はその卒業展にあたるもので、5人の実習生(新崎哲史、上原エリカ、新城昇子、堤義治、仲村ちはる)に加えて、同じ条件で個別に指導した2人の特別参加者(伊波リンダ絵美子、北上奈生子)の作品が展示されている。
2週間に一度、5回の授業をおこなうなかで徹底したのは、毎回100点のプリントを提出してもらうということだった。そこから東松と一緒に作品を絞り込んでいく。これは仕事を持っている受講生にとってはかなり過酷な条件だが、7人とも何とかクリアしたという。その過程で、作品を選択する目が確実についてきた様子がうかがえる。基本的には全員がスナップショットだが、それぞれが自分の「まなざし」を研ぎ澄まして、個性的なスタイルを作りあげつつある。特に新城昇子の「ゴーストフレンズ」や仲村ちはるの「うりずん」には、沖縄の地霊の促しによって撮影されたかのような生命感がみなぎっている。
なお東松は長崎美術館での個展「東松照明展 色相と肌触り 長崎」(2009年10月3日~11月29日)にあわせて、長崎でも「デジタル写真ワークショップ」を開催の予定という。このエネルギッシュな活動ぶりには敬服するしかない。
2009/07/22(水)(飯沢耕太郎)
岩村伸一 展
会期:2009.07.21~2009.08.02
アートスペース虹[京都府]
壁いっぱいの画面に、土、蜜蝋、テレピンで描かれた格子。色もそれぞれの線ごとに違うが、よく見ると土や泥の粒の塊がところどころに確認でき、一本の線の上でも微妙な変化とさまざまな表情を見せている。作家は制作を絵を描くというのではなく「作業」と呼ぶのだという。その「作業」光景が頭に浮かんでくる。いつのまにか上下左右に線が伸びていくような格子が、何の変化もないかのように過ぎていく穏やかな日常と重なるような気がした。
2009/07/24(金)(酒井千穂)