artscapeレビュー

2009年08月15日号のレビュー/プレビュー

越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭2009

会期:2009.07.26~2009.09.13

越後妻有地域[新潟県]

新潟県南部に広がる約760平方キロの山村地域に、旧作も含め370点もの作品が散りばめられた破格の規模の展覧会。作品密度は2平方キロに1点の割合だ。といわれても多いのか少ないのか判断しかねるが。今回、プレス用バスツアーに乗って2日間かけて見て回ったが、1日5時間バスに揺られて訪れたのは15カ所ほど、作品点数にして30点にも満たないくらい。これじゃあ1週間あっても見きれないぞ。でもプレス用のツアーだからあっちこっちつまみ食いしながら回ったので、時間はかかったけど代表的な作品は見ることはできた。
今年の特色は前回と同じく、増え続ける廃屋や廃校を作品化していく「空家・廃校プロジェクト」。訪れた15カ所のうち、クロード・レヴェック、ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー、アントニー・ゴームリー、オーストラリアハウス、塩田千春、田島征三、福武ハウスなど実に12カ所が空家か廃校だった。なんだか「大地の芸術祭」がいつのまにか「空家の芸術祭」になっていないか。でもそれは、初めのころよりズイッと地域コミュニティに入り込んでいった証でもあるだろう。つまりこの芸術祭が住人に受け入れられたということだ。
反面、気になることもある。多くのアーティストが地域や住人や家の歴史・記憶といったものをテーマにするようになったこと。それ自体は悪いことではないのだが、みんながみんなそっちの方向に走ってしまうと重苦しいし、なにか住人に媚びてるようでうっとうしく感じられるのも事実。その点、空家の1室で嵐を体験できるジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーの《ストーム・ルーム》は、地域性も歴史性も感じさせないナンセンスぶりにおいて飛び抜けていた。

2009/07/25(土)、2009/07/26(日)(村田真)

野村仁「変化する相──時・場・身体」

会期:2009/05/27~2009/07/27

国立新美術館[東京都]

日本を代表する現代美術アーティストの一人である野村仁。立体やインスタレーション作品も多いが、彼は本質的には「写真家」なのかもしれないと、代表作を集成した回顧展「変化する相──時・場・身体」を見て思った。彼の方法は、とりあえず流動し変容する世界を写真という画像形成システムにインプットする所から始まる。その場合、被写体が固定している場合と動いている場合、カメラ(眼)が固定している場合と動いている場合があり、その組み合わせは計8通りになる。いったんその組み合わせが決まれば、あとはほぼ自動的に撮影が進み、画像はとめどなく増殖していく。その進行にどこかで区切りを付けるために、秒、分、時、日、年といった時間の単位が導入され、その単位ごとにひとまとまりの作品が成立してくる。
言葉で書くとシステマティックな印象だが、実際にできあがってくる作品は偶発的な意外性にあふれ、網膜を気持ちよくマッサージするチャーミングな美しさを備えている。高度に論理的、知的でありながら何ともユーモラスでもある。とはいえ「見るものすべてを写す」というとんでもない構想によって、ムービーカメラのコマ撮り機能で10年間にわたり撮影した連続写真を、120冊の本の形にまとめた「Ten-Year Photobook 又は視覚のブラウン運動」(1972~82)といった作品には、ほとんど狂気すれすれの画像システムへの没入が垣間見える。刺激の多いラディカルな展示。個人的には、「宇宙はきのこのように発生したか」(1987)という作品を見ることができたのが大収穫だった。

2009/07/26(日)(飯沢耕太郎)

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土井一秀+小川文象 建築展「World Standard──広島若手建築家二人展」

会期:2009/07/22~2009/08/30

カッシーナ・イクスシー広島店[広島県]

広島の若手建築家である土井一秀と小川文象による二人展。場所はカッシーナ・イクスシー広島店で、店舗として通常営業しつつ、その中に模型やパネル、映像などの展示物を混在させる。ヨーロッパでの経験をふまえて広島で活躍し始めた二人の軌跡は、東京を経由せずに世界とつながる地方建築家のモデルを示しているのではないか(もっとも小川は東京の大学で学んでいるが)。タイトルの「World Standard」にも、そのような思いが込められているだろう。それぞれの作品は対照的で、土井が地形や周辺環境を読み取りつつ作品の根拠とするのに対し、小川は自律的であることで場所に関係なく普遍的に成立する建築を目指す。しかし、そのベクトルが逆を向いているように見えるにもかかわらず、両者ともミニマルへの指向があり、作品が共鳴していたように感じた。ミニマルであるということと、広島であるということに関係性を見いだせそうであるが、これについては根拠のはっきりしない仮説になるので保留する。この展覧会を見に行って感じたのは、二人とも海外との距離をほとんど感じていないという点であり、建築家が地方都市において世界的な視野のもとに活動するという可能性が現われていた。レセプションにて二人のトークイベントに筆者も参加させてもらったのであるが、建築家がローカルなものとグローバルなものをいかにしてつないでいくのかという地方都市であるからこそ考えられる問題について、有意義な議論が闘わされた。

2009/07/26(日)(松田達)

水と土の芸術祭2009

会期:2009.07.18~2009.12.27

新潟市全域[新潟県]

前夜、越後妻有から新潟市に移動。こちらでも「大地の芸術祭」と同じく、広域に点在させた作品を見て回るオリエンテーリング方式の展覧会をやっている。なんで似たようなことを同じ県内で同時期にやるのかというと、ディレクターが同じ北川フラムさんだからだ。ちなみに北川さんはこの夏「水都大阪2009」も手がけている。いくらなんでもやりすぎじゃないですか。新潟市のほうは726平方キロに71点の作品があるので、約10平方キロに1点という作品密度。これも回を重ねるごとに点数が増えていくのだろうか。そもそも継続できるのか。ともあれ、今日はバスツアーで10カ所ほど回り、20点以上を見ることができた。感想をひとことで述べれば、第1回の「大地の芸術祭」を思い出す。

2009/07/27(月)(村田真)

《起雲閣》

[静岡県]

1919年に建てられて以降、増改築を繰り返した熱海の近代建築。日本、中国、ヨーロッパの様式や装飾を融合させた建築で、熱海の三大別荘の一つとも言われた。内田信也、根津嘉一郎、桜井兵五郎という三人の富豪が順に所有し、桜井時代の旅館を経て、現在は熱海市の所有で観光スポットとして見学可能である。意外だったのは金沢との関係で、壁が青く塗られた内田信也別邸は、兼六園にある成巽閣の群青の間を思い出させるのだが、実際、金沢の棟梁がそれと同じ塗料で壁を塗ったという。石川県出身の桜井が連れてきたのだろう。ローマ風浴室、文豪の部屋など、歴史の不思議なコラージュがなされた建築である。

2009/07/28(火)(松田達)

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