artscapeレビュー
2009年08月15日号のレビュー/プレビュー
藤森照信『21世紀建築魂』
発行所:INAX出版
発行日:2009年6月30日
なんとも力強いシリーズの登場だ。大御所による若手建築家とのコラボレーション企画によって21世紀の建築のあり方を占う。その第一弾となる本書では、藤森がアトリエ・ワン、阿部仁史、五十嵐淳、三分一博志、手塚建築研究所らと対談しているが、彼らはいずれも有名かつ人気の布陣である。藤森らしさがもっともよく出ているのは、大工であり、ダンサーでもある岡啓輔の起用だろう。2003年のSDレビューで藤森が彼の70cmずつコンクリートを打設する住宅のセルフ・ビルドのプロジェクトを選んだときも、なるほどと思ったのだが、今回はじっくりと二人の体感的な建築論の会話が楽しめる。
2009/07/31(金)(五十嵐太郎)
『ka 華』33号
東工大が制作している建築学科の年報である。現在、いろいろな大学でこうした年報を制作するようになった。個性という点では東京芸大の『空間』も興味深いが、内容の密度では、おそらくこれにまさるものはないだろう。一年間の各課題の紹介とレビューはもちろん、茶谷正洋先生の巻頭記事、ニュース・投稿、そして特集「太陽と建築」まである(ときどき英文サマリーも)。毎号毎号、総力戦による充実ぶりには、頭が下がる思いだ。博士課程の学生が中心になって編集したようだが、学生の層の厚さを感じさせる。筆者も東北大にて『トンチク』を制作しているが、最初に考えたのは、簡単に『ka』を越えることはできないから、まったく違うスタイルをとることだった。予算がほとんどないなかで、いかに仕事量を減らしながら、最大限の効果を生むか、である。つまり、『ka』は建築系の大学の年報にとって指標というべき存在になっている。
2009/07/31(金)(五十嵐太郎)
『Landscape of Architectures Volume 6』
発行所:アップリンク
発行日:2009年8月7日
アップリンクの建築DVDシリーズ、ランドスケープ・オブ・アーキテクチュアズの第6段。今回はわりと歴史的な建築が多い。取り上げられた建築物は6つ。1.王のモスク[イスファハーン]、王の広場に面したモスクで、ラピスラズリの鮮やかな青が異様なくらい美しい。2.サッカラの階段状ピラミッドは、エジプトにおける死者のための建築であり、もっとも古い建築の原型を見ることができる。3.ルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団コンサートホール(クリスチャン・ド・ポルツァンパルク)は、音楽の運動性を取り入れた「運動体としての建築」である。4.ムニエのチョコレート工場(ジュール・ソルニエ、ジュール・ログル、ステファン・ソヴェストル)は、初期の鉄骨造建築として有名なもの。隣の鉄筋コンクリート造の先駆的な建物はあまり知られていないが、映像では両者を見ることができる。5.SASロイヤルホテル(アルネ・ヤコブセン)は、ヤコブセンによるコペンハーゲンのホテル。14本のケーブルで吊られた優雅ならせん階段、洗練された家具や備品など、見所が多い。6.セント・パンクラス駅(ジョージ・ギルバート・スコット、ウィリアム・バーロー)は、技術者と建築家によるもの。技術と芸術の隣接関係が見られるのは興味深い。いずれも、建築の時間を超えた力を感じさせる映像である。このシリーズは、フランスで制作されたDVDの翻訳版であるが、必ずしも注目度の高い有名な作品を選ぶわけではなく、新しい発見を促すような独自の選択をしているところに好感が持てる。筆者は五十嵐太郎氏、櫻井一弥氏とともに、字幕監修解説を担当した。
2009/07/31(金)(松田達)
カタログ&ブックス│2009年8月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
パターン、Wiki、XP 時を超えた創造の原則
デザインパターン、Wiki、XP。一見,何の関係もなさそうに思えるこの3つは、実は同じ起源から発生した兄弟です。...アレグザンダー(パターンランゲージの発明者)、ウォード・カニンガム(Wikiの発明者)、ケント・ベック(XPの提唱者)らが織りなす約半世紀の歴史物語をたどりながら、優れた創造を行うための共通原則に迫ります。[技術評論社サイトより]
西沢立衛対談集
建築家の西沢立衛が、次なる建築をめぐり徹底対談。対話者は、原広司、伊東豊雄、藤本壮介、石上純也、妹島和世、長谷川祐子という、建築の最前線で活躍する6名。ここに収録した7つの対話には、世界を相手に建築創造に向き合う彼らだからこそ発せられる言葉にあふれている。さらに本書は、北は青森から南は熊本まで、さまざまな建築作品を舞台に対話を繰り広げてきた西沢立衛の旅の記録でもある。[彰国社サイトより]
藤森照信 21世紀建築魂─はじまりを予兆する、6の対話─
「建築のちから」シリーズでは、伊東豊雄、山本理顕、藤森照信の3人が、建築が直面している問題をとらえ、建築の読み解き方と可能性を探る。シリーズ第一弾は、藤森照信が注目する6組の若手建築家たちと対話を重ねる。建築家たちは今どこにつくる動機を置いているのか。モダニズム建築の“透明で白い箱”からどう逸脱していけるのか。そして、対話のすえに藤森がとらえた21世紀建築のはじまりの予兆とは。巻末に伊東豊雄、山本理顕との鼎談も収録。若手建築家の6作品を写真家・藤塚光政による撮下し写真で掲載。[INAX出版サイトより]
2009/08/17(月)(artscape編集部)
岡本太郎・東松照明 写真展「まなざしの向こう側」
会期:前期(本島・久高島編)2009/05/23~2009/06/28
後期(離島編)2009/07/11~2009/08/30
沖縄県立博物館・美術館 コレクションギャラリー1[沖縄県]
インタビューの仕事で、皆既日食の日に、長崎から沖縄・那覇に拠点を移しつつある東松照明氏を訪ねる。ついでに2007年に新装オープンした沖縄県立博物館・美術館で、岡本太郎と東松照明の写真コレクション展を見ることができた。ちょうど開催されていたのは会期の後期にあたる「離島編」で、作品は各18点ほどと少ないが、緊張感あふれるいい展示だった。岡本は1959年の最初の渡沖の時に撮影された石垣島、宮古島、竹富島の写真、東松は1971~73年に撮影された奥武島、伊平屋島、宮古島、波照間島などの写真が中心で、1991年の多良間島のカラー写真もある。
これまで、この二人の沖縄に対するアプローチの仕方は、かなり異なっている印象があった。時代も違うし、撮影の動機も、それぞれの問題意識もかけ離れている。だが、あらためて見ると、むしろ二人の写真の等質性の方が目についてくる。表層的な現実を突き抜けて、そこにある風景の原質、古層というべきイメージを立ち上げるやり方、被写体となる人間や事物のディテールに細やかに分け入りつつ、全体を大きく みとる力──そのあたりがとても似通っているのではないだろうか。二人に共通する民俗学─人類学的な「まなざし」が、沖縄という希有な場所と出会ってスパークし、揺れ騒ぎ、見る者に飛びかかってくるような躍動感のあるイメージ群として形をとっている。
2009/08/22(土)(飯沢耕太郎)