artscapeレビュー

2010年06月15日号のレビュー/プレビュー

第84回国展

会期:2010/04/28~2010/05/10

国立新美術館[東京都]

ワケあって国画会の展覧会を見に行く。国画会は1918(大正7)年に文展(日展の前身)から独立した団体。リアルな具象画が大半を占める日展とは違って抽象的な絵が多いが、でも純粋抽象は少なく、半具象・半抽象だったり、具象と抽象が混在した中途半端な作品が目立つ。ほかにも、なぜか独立美術協会の絹谷幸二みたいなプレJポップとも呼ぶべきマンガチックなイメージと、漫画家志望だったけど才能がなかったから画家になりましたみたいな開き直りと、レリーフ状やシェイプトキャンヴァス状の画面が目につく。20世紀なかばなら「先端」と呼ばれたかもしれないが。彫刻ものぞいたら、こちらはてんでバラバラ。戸谷成雄みたいなチェーンソー愛好家が約2名いたが、ひとりはなんと石をチェーンソーで彫ってる! いやー美術っておもしろいですねえ。

2010/05/09(日)(村田真)

「ダヴィンチの森 レノンの瞑想」山部泰司、美崎慶一

会期:2010/05/04~2010/05/16

gallery morning kyoto[京都府]

二つの大きなアートフェアもまもなく開催、という頃、「京都はアートフェアの季節。gallery morning kyotoもひとりアートフェアやります。」というTwitterのつぶやきを見つけ、思わず吹き出してしまった。ギャラリーモーニングはちょうど一年前にオープンした画廊。見にいかねば!と思わせられるチャーミングなつぶやき。この「一周年記念のアートフェア」という企画と同時に山部泰司、美崎慶一の絵画展も開催中だった。「ダヴィンチの森 レノンの瞑想」という二人展のタイトルは、それぞれの絵画に描かれた小さなモチーフや、その制作のテーマから画廊オーナーが連想したものだそう。中世や近代の名画に描かれた森の道のイメージをモチーフにした、山部泰司の一連の絵画は、「描かれた風景」の物語として実際の時間を追うように展開する。絵画の画面に表われる画家の記憶や、「風景」として表われる時代ごとの時間や自然と、描かれた情景に重層的な時間の奥行きを感じさせる作品。一方、日常的な風景を描く美崎慶一の表現は、余白と描かれた対象の関係が絶妙に時間の経過やその意味を示す。そっと見る者にクイズを出すようなおしゃれなセンスが画面にうかがえてこちらも楽しい。奥のスペースで開催されていた小さなアートフェアの作品群も、「ダヴィンチの森 レノンの瞑想」もとても清々しく上質な展覧会だった。

2010/05/09(日)(酒井千穂)

彦坂尚嘉+五十嵐太郎+新堀学『空想 皇居美術館』

発行所:朝日新聞出版

発行日:2010年5月30日

美術館・美術批評家の彦坂尚嘉が約10年前から提案していた「皇居美術館空想」の書籍化である。彦坂尚嘉、五十嵐太郎、新堀学の3人が著者であるが、辛酸なめ子、藤森照信、暮沢剛巳らによる寄稿もあり、シンポジウムや座談会では、政治学者の御厨貴、原武史、政治活動家の鈴木邦男、社会学者の宮台真司が加わるなど、執筆陣も豪華だ。筆者は直接彦坂氏から皇居美術館の話はよく聞いていたが、あらためて本書を読むと、特にシンポジウムと座談会の記録は圧巻であり、まさに「皇居」とは、さまざまな分野の人たちが議論を繰り広げることのできる巨大な「敷地」であったことを実感する。馬鹿げた提案ではなく、シンポジウムでは過去の天皇制に関する議論、歴史、また皇居の空間史などを追っているが、提案の不自然さはまったく見えてこない。むしろこれだけ議論を誘発する優れた提案だといえるのではないか。もちろん本になるまで構想から10年もかかっており、出版できたこと自体が快挙だと言えるだろう。タブーに触れるのではないかと、こわごわと眺めている人がいれば、手にとって読んでみるとまったくその印象が変わる本であろう。

2010/05/10(月)(松田達)

『建築雑誌2010年4月号 特集〈郊外〉でくくるな』

発行所:日本建築学会

発行日:2010年4月20日

従来の郊外論を問い直そうとする意欲的な特集。中谷礼仁編集長による新体制の建築雑誌における特集号である。本号の担当委員は、東京電機大学の伊藤俊介氏と首都大学東京の饗庭伸氏。郊外は都市外縁部として、一律に無個性で均質な空間とまとめられる傾向があるが、実際にはもっと多様であり、そこに向かい合おうというのが本号の主旨である。饗庭氏によれば、世界を理解する三つの方法「帰納法」「演繹法」「類推法」のうち、帰納法では郊外が画一的だと結論づけられる傾向があることに対して、演繹法と一部類推法でアプローチしたのだという。特に興味深かったのは、大野秀敏氏(建築家)、福川裕一氏(都市計画)、藻谷浩介氏(地域エコノミスト)による鼎談であり、郊外には歴史性や多様性があり(あるいはこれから生まれる可能性があり)、それを読み込むべきという大野氏、藻谷氏に対し、都市計画を専門とする福川氏は、郊外はやはり均質だと真っ向から対立し、中心市街地の重要性を指摘する。つまり、まさに本特集号の是非が多角的に捉えられた対談となっている。その他、「理想」や「夢」から「虚構」と「幸福」へ、「故郷」から「地元」へという、用語の変化から「郊外」を考える重松清氏と若林幹夫氏の対談、車を長い廊下として郊外全体がつながっている空間の仕組みを「インドア郊外」と定義しつつ、郊外における場所性や差異を見出していこうとする岩佐明彦氏の論考も興味深かった。この特集であれば「湾岸」に関しては、どこかで触れても良いのではないかと思った。

2010/05/10(月)(松田達)

アートアワードトーキョー丸の内2010

会期:2010/04/29~2010/05/30

行幸地下ギャラリー[東京都]

全国の美大・芸大の卒展からの選抜展。開館時間の1時間以上も前に行ったら開いていた。というか、ウィンドーギャラリーだから照明さえついていればいつでも見られるだろうとは思っていたのだ。が、なるほど映像はオンされてなかった。ま、映像はハナから見るつもりはなかったので、わずらわしくなくていい。メインは絵画で、なかなかの粒ぞろいだが、とくに松隈無憂樹、佐藤翠、中山明日香、尾竹隆一郎(水彩)がよかった。うち、松隈は佐藤直樹賞、佐藤は小山登美夫賞を受賞。ちなみにグランプリは松島俊介の映像作品だった。

2010/05/11(火)(村田真)

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