artscapeレビュー

2010年06月15日号のレビュー/プレビュー

久保晶太 絵本原画展2010「あたしのサンドイッチ」

会期:2010/05/18~2010/05/24

バートックギャラリー[東京都]

ふつう絵本の原画展など見に行かないが、久保くんは中学のときに同じ美術部に所属していた同窓生なので、10数年ぶりに会いに行ったのだ。久保くんと話すと、いかに自分が薄汚れた中年に成り下がったか落ち込んでしまうほど、中学生のままの純真な気持ちを保ち続けている稀有な人で(だいたい純真な中学生自体いまや絶滅危惧種だ)、それが絵本にも全開してるから胸が締めつけられそう。その絵本が出たのがぼくの『アートのみかた』とほぼ同時期だったので、お互いサインを入れて交換。『あたしのサンドイッチ』は教育画劇から出ています。

2010/05/21(金)(村田真)

中村ケンゴ「自分以外」

会期:2010/05/11~2010/06/05

メグミオギタギャラリー[東京都]

手塚治虫のマンガの一部をつなぎ合わせた線描画や、部屋の間取りを色分けしたモンドリアン風抽象画(?)など、これまでのシリーズの延長上の新作展。これらを日本画の素材と技法で描くという意外性が、じつは意外でもなんでもなく、きわめて自然な発想であることに気づく。あわせて「スピーチバルーンミラー(フキダシ型の鏡)」やオリジナルTシャツも販売。

2010/05/21(金)(村田真)

川田喜久治「ワールズ・エンド Worlds’s End 2008-2010」

会期:2010/05/13~2010/07/10

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

1933年生まれの川田喜久治は、いまでも週に何日かは「プールで泳いでいる」のだという。70歳代後半だが、気力も体力もまだまだ充実していることが、この新作展からも伝わってきた。
2008年の暮れから2010年3月まで「毎日撮影することを自分に課した」その成果が並んでいる。撮影場所は東京がほとんどだが、あえて今回は、自分が住んでいるこの場所のいまを撮影するというこだわりがあったようだ。前作の「ユリイカ Eureka 全都市」(2005年)、「見えない都市 Invisible City」(2006年)と同様に、デジタルカメラの連写機能やパソコンでの合成や色味の変換を活かした作品が並ぶが、シャドー部の翳りがより強調され、不穏当な気配がさらに大きく迫り出してきているように感じる。全体的に無機的なモノと有機的な生命体とが絡み合うハイブリッドな状況に強く引きつけられるものがあるようだ。その「一瞬のねじれやファルス」を追い求めていくと、どうもフレーム入りの写真が整然と並んでいる、静まりかえった会場の雰囲気とはややそぐわないようにも思えてくる。
これはほんの思いつきだが、逆にノイズがあふれる工事現場のような場所で見たかったような気がする。ノイズ・ミュージックをバックにしたスライドショーのような形も面白いかもしれない。そんなふうに思わせるような、「はみ出していく」エネルギーが、作品に渦巻いているということだろう。

2010/05/21(金)(飯沢耕太郎)

沈昭良「STAGE」

会期:2010/05/12~2010/05/25

銀座ニコンサロン[東京都]

沈昭良は1968年台湾・台南市生まれの写真家。日本に滞在して日本工学院専門学校で写真を学んだ時期があり、流暢な日本語を話す。この「STAGE」のシリーズは2006~2009年に4×5判の大判カメラで撮影されたものである。
はじめて目にする観客は、いったいこれは何だろうといぶかしむのではないだろうか。きらびやかな電飾が光輝く舞台が、夜空に大きくせり上がっている。これは「台湾綜芸団」(タイワニーズ・キャバレー)と呼ばれる見せ物の舞台として使われるもので、トラックの荷台にセットされ、油圧電動式のモーターによってパタパタと開くようになっているものだ。ステージトラックと呼ばれるこの舞台は台湾全土で600台ほどあり、夜ごといろいろな場所で歌謡ショーや民俗芸能大会などが開催されている。時には「女装の男性によるショー」なども見ることができるという。
沈の撮影の方法はきわめてオーソドックスなドキュメンタリーだが、逆にこのテーマにはそれしかやりようがないのではないだろうか。ドラゴンとディズニー・キャラが共存する華洋折衷というべき舞台のデザインそのものが、もう既に作り物の極みなので、演出的な撮影をする必要がないともいえる。ただ今回の展示では、舞台をあまり大きく扱わず、周囲の状況を取り入れた作品が多くなっていた。亜熱帯の、ねっとりと肌にまつわりついてくるような空気感が丸ごと伝わってくる。華やかだが、どこか悲哀感も漂う、台湾の都市文化のひとつの貌が浮かび上がってきているようにも感じた。

2010/05/21(金)(飯沢耕太郎)

ティンバライズ建築展

会期:2010/05/21~2010/05/30

スパイラルガーデン[東京都]

2000年の建築基準法改正により、木造による耐火建築が可能となり、都市の中で大規模木造建築物をつくることが現実的となった。本展覧会は、表参道とその周辺地域に7つの木造建築プロジェクトを計画したものを展示することにより、「都市木造」の可能性を問うたものとなっている。単に法規的な規制緩和との関係だけでなく、木造建築は炭素を固定することから、低炭素社会への布石ともなっている。会場を見て、建築に新しい「種」が現われたかのような驚きを感じた。もしこういった都市木造建築が可能になっていけば、都市部における構造の選択肢が増えるわけであり、さらには木造超高層といった未踏の建築も生まれる可能性もある。さらに大学の研究室や建築家による提案プロジェクトコーナーは、その可能性をさらに展開するものであった。現時点では、4階以上の木造建築で実現しているものは多くはないが、本展覧会は実現可能な未来を展示するものであり、今後の新しい流れが生まれる兆しを感じさせた。

2010/05/21(金)(松田達)

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