artscapeレビュー
2011年03月01日号のレビュー/プレビュー
Presentation Zen
発行日:2009/09/04
「デザイン」とは、見た目や可視的なものだけを意味する言葉ではないということを、ガー・レイノルズ氏の著述は改めて教えてくれる。彼が提唱する〈Presentation Zen〉とは、禅の理念を旨とするプレゼンテーションのデザイン術のこと。氏は、アップル本社のマネージャー時代に、マックのユーザー団体を対象に講演やデモンストレーションを行なった豊富な経験をもつ。現在は、関西にある私立大学の准教授で、経営学やマルチメディア・プレゼンテーションを教えている、その分野に関してはいわばプロ中のプロ。著書『プレゼンテーションzen──プレゼンのデザインと伝え方に関するシンプルなアイディア』(ピアソン・エデュケーション、2009)はプレゼン以前の心構え・アプローチに始まり、構想の段階から発表までを幅広く扱う。本書はビジネス部門でベストセラーになったが、教師や学生にとっても有用だろう。続編『プレゼンテーションzenデザイン──あなたのプレゼンを強化するデザインの原則とテクニック』(ピアソン・エデュケーション、2010)は、スライドの事例を豊富に掲載し、ヴィジュアル面に特化している。そして、彼の充実したブログ(英語)──単なるプレゼン論にあらず、人生哲学についても触れられていて勇気づけられる──を読むならば、私たち誰もが可能性を秘めた主役であって、自らが常になにかを能動的につくりあげながら生きている「デザイナー」なのだということに気付かされる。いずれにおいても、ガー・レイノルズの趣旨は、視覚的プレゼンの方法をテクニカルに説くものではない。コミュニケーション・デザインの内奥を論じているのだ。[竹内有子]
2011/02/15(火)(SYNK)
林勇気 展 あること being/something
会期:2011/02/18~2011/03/19
兵庫県立美術館[兵庫県]
兵庫県立美術館が、注目作家の紹介を目的に新たに始めた企画展「チャンネル」。その第1弾として、林勇気の個展が行なわれている。出品作品は、新作《あること》と、旧作5点。見どころはやはり新作で、天地6メートル以上、左右10メートル以上の大スクリーンに投影される映像大作となった。本作の特徴は、作中に登場する人物や素材の一般公募が行なわれたこと。延べ121人から集められたスチール画像は林の手で編集され、巨大スクリーン上で浮遊しながらゆっくりと上昇して行く。画面を見つめていると、まるで自分が世界そのものと対峙しているような気持ちになった。本作は、デジタル技術の進化により従来とは異なる質と形態でコミュニティーが構築されるようになった今日の世界観をビジュアライズしたものかもしれない。豊かな才能を持つ作家に活躍の場を与えるという美術館の狙いは、1回目から見事に的中した。
2011/02/18(金)(小吹隆文)
プレビュー:風穴 もうひとつのコンセプチュアリズム、アジアから
会期:2011/03/08~2011/06/05
国立国際美術館[大阪府]
1960年代、70年代とは異なる文脈、方法論でコンセプチュアルな傾向を持つアーティストたちが、アジアから現われているのではないか。そんな文脈を軸に、現在活躍中のアーティストを紹介する。出品者は、プレイ、木村友紀、contact Gonzo、島袋道浩、ヤン・ヘギュ、アラヤー・ラートチャムルーンスックら9組。個々の作家がどのような作品を見せてくれるのかはもちろん、国籍、世代、ジャンルなどを異にする作家たちをどうまとめるのか、美術館のキュレーションにも注目したい。
2011/02/20(日)(小吹隆文)
プレビュー:松井沙都子 展 PHANTOM HIDES ON THE WALL
会期:2011/03/08~2011/03/27
neutron kyoto[京都府]
既視感のあるモチーフの断片が繋がって、見る者をもどかしさに満ちた不安定な感覚へと導く松井沙都子の作品。その作風は、パソコンを用いた編集作業とカッティングシートでの出力という手法を確立することで、一層磨きがかかってきた。これ見よがしな演出は一切ないのに、割り切れない居心地の悪さを感じさせる、なんとも不思議な感触を持つ世界は彼女ならではのものだ。
2011/02/20(日)(小吹隆文)
プレビュー:パウル・クレー展─おわらないアトリエ
会期:2011/03/12~2011/05/15
京都国立近代美術館[京都府]
パウル・クレーは、生涯に制作した作品約9,600点をリストアップし、それらの制作方法を正確に記述していた。同時に「特別クラス」と名付けた重要作品を手元に置き、常にそれらを反芻しながら新たな制作に取り組んでいた。本展では、「特別クラス」の作品を含む約170点により、彼の作品がどのようなプロセスを経て制作されたのかを明らかにする。過去に開催されたどのクレー展よりも、制作の秘密に踏み込んだ内容となりそうだ。
2011/02/20(日)(小吹隆文)