2018年10月15日号
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artscapeレビュー

野口里佳「夜の星へ」/「鳥の町」

2016年01月15日号

キヤノンギャラリーS/GALLERY KOYANAGI[東京都]

2014年の個展「父のアルバム/不思議な力」(916)を見て、野口里佳の作風が変わりつつあるのではないかと感じた人は多いだろう。亡くなった父親が遺した写真のネガを自らプリントし直した「父のアルバム」、その父が使ったハーフサイズのカメラで、身近に起きる出来事を撮影した「不思議な力」──そこには遠い宇宙の彼方から地上に視線を向けているような、それまでの野口の作品とはやや異質な、親密な感情の交流を感じさせる写真が並んでいたのだ。
今回、ほぼ同時期にキヤノンギャラリーSとGALLERY KOYANAGIで開催された二つの個展もその延長上にある。「夜の星へ」では、ドイツ・ベルリンの仕事場から自宅に向かう2階建てバスの窓から、滲んで広がるイルミネーションや車のヘッドライトの光を、やはりハーフサイズのカメラで撮影していた。「鳥の町」では、「私の家から車で一時間ほど」の場所にある小さな町の上を飛ぶ、渡り鳥の群れにカメラを向けている。どちらも身近な日常の事象を題材としており、それを柔らかに包み込むような雰囲気で写真化しているのだ。
とはいえ。このような「近い」距離感で撮影された写真群が、突然にあらわれてきたのかといえば、そうではないだろう。元々彼女には、近さと遠さ、直観と論理的な構築力を自在に使いこなす能力が備わっており、ベルリンで暮らし始めてから10年余りを経て、それを着実に発揮することができるようになったということだと思う。「夜の星へ」には同時に映像作品も展示されていた。静止画像と同じ被写体を動画化したものだが、その取り組みもまったく違和感なく、自然体でおこなわれている。写真や映像を通過させることで、混沌とした世界の眺めを独自の視点で再構築化していくプロセスが、野口の中にすでにしっかりと組み込まれ、身についていることを、あらためて確認することができた。
会期:「夜の星へ」2015/12/17~2016/2/8 キヤノンギャラリーS
  「鳥の町」2015/12/19~2016/1/30 GALLERY KOYANAGI

2015/12/22(火)(飯沢耕太郎)

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