artscapeレビュー

2015年11月15日号のレビュー/プレビュー

オノデラユキ「Muybridge's Twist」

会期:2015/10/07~2015/11/10

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

オノデラユキの発想力と作品の構築力にはいつも驚かされる。今回ツァイト・フォト・サロンで展示された「Muybridge's Twist」は、今年4月~6月のパリ・ヨーロッパ写真美術館(MEP)での個展で、最初に発表されたシリーズだが、まずそのスケールに度肝を抜かれる。最大で304×210センチの大きさで、やや天井が低い今回の会場の壁にはおさまりきれず、上下にはみ出しているものもある。
内容的にもかなりトリッキーで、複数の写真図版(モード、建築、オブジェ等)を複写して大きく引き伸し、それらを自在に切断/コラージュしてキャンバス地に水性の糊で貼り付けてあるのだ。「Muybridge's Twist」というのは、いうまでもなく、19世紀に運動している動物や人間を連続的に連続撮影して、「動き」の瞬間のフォルムを定着しようとしたエドワード・マイブリッジにちなんだタイトルである。オノデラはマイブリッジの手法を逆転させて、動かない写真に「動き」を与えようともくろむ。その「コレオグラフィ」的な操作はかなり成功していて、奇妙に歪んだり捩じれたりした、リアルな夢のようなイメージが出現していた。写真と写真のつなぎ目に、切り取りの「当たり」の線をわざと残したり、地の部分に木炭で薄く影を入れたりする、細やかな配慮もうまく効いていたのではないかと思う。
会場にはもう一つ、2本のペットボトルを、「不意打ち」のようにあり得ない形に接続して撮影したシリーズも並んでいた。こちらは「Study for “Image la sauvette”」というタイトルが示すように、アンリ・カルティエ=ブレッソンへのオマージュだという( “Image la sauvette”は『決定的瞬間』の仏語版のタイトル)。写真史を渉猟しつつ、新たなイメージを創出していくオノデラの試みは、さらにスリリングなものになりつつある。

2015/10/08(木)(飯沢耕太郎)

ロベール・ルパージュ作・演出「Needles and Opium 針とアヘン──マイルス・デイヴィスとジャン・コクトーの幻影」

会期:2015/10/09~2015/10/12

世田谷パブリックシアター[東京都]

ギミックたっぷりの作品だ。すなわち、プロジェクション・マッピング×さまざまに開口が仕掛けられた回転するキューブの空間×重力に抗う俳優の動きによって、観客を驚かせる。会期中に建造物が回転することで、機能を変えていく、OMAのトランスフォーマーを思い出した。ただし、マイルス・デイヴィスとジャン・コクトーを交差させる物語は、思ったほどの説得力を感じなかった。

2015/10/09(金)(五十嵐太郎)

Don’t Follow the Wind: Non-Visitor Center

会期:2015/09/19~2015/11/03

ワタリウム美術館[東京都]

福島の帰還困難地域で開催されている、放射線の影響ゆえに、現在立入できない(しかし、将来は訪れることができるかもしれない)展覧会のノンビジターセンターが、美術館の内部に出現する。現物がない、そして現地に行くことができない、不可能性を問いかける作品の数々と展示の手法だ。特に3階のエレベータが開く瞬間が、衝撃的である。ドアが壁で塞がれているからだ。もっとも、会場に現物がないのは、建築展も同じである。

2015/10/09(金)(五十嵐太郎)

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東京国際写真祭2015

会期:2015/10/09~2015/10/18

ART FACTORY城南島[東京都]

2年間の準備期間を経て、今年からスタートした「東京国際写真祭」。国際的な写真コンペ「東京インターナショナルフォトグラフィーコンペティション」の受賞作家7名の展示と、このイベントのために企画された「What makes us “us”─私たちの世界の領域─」展に加えて、シンポジウム、ワークショップなどが開催された。羽田空港の対岸の城南島というかなりアクセスが悪い会場だが、企画自体はしっかりと練り上げられていて、回を重ねていけば、さらに大きく展開していきそうな可能性を感じた。
特に注目すべきなのは、小高恵美がキュレーションした「What makes us “us”─私たちの世界の領域─」展である。「都市と自然」(ホンマタカシ/田附勝/アレハンドロ・チャスキエルベルグ/ルーカス・フォグリア)、「民族」(石川直樹/ナムサ・レウバ/ローラ・エルタンタウィ)、「境界」(下道基行/ノエミー・ゴーダル/リウ・ボーリン)、「コミュニティーとカルチャー」(細倉真弓/山谷佑介/マイク・ブロディ)という14名のラインナップで、他に西野壮平の東京をテーマにしたフォト・コラージュ作品が特別展示さていた。「私たちの生きるこの世界の領域について考え、新しい世界の見方と対話を生み出そうとする試み」という、展覧会の意図が、日本の若手とインターナショナルな写真家たちを組み合わせた出品作家の人選によくあらわれており、多面的な世界のあり方を、写真によって問いかけていくという志の高さを感じさせるいい展示だった。できれば、きちんとしたテキストを掲載したカタログも作ってほしかったが、それは今後の課題ということだろう。

公式サイト http://www.tipf.jp/

2015/10/09(金)(飯沢耕太郎)

中村政人「明るい絶望」

会期:2015/10/10~2015/11/23

3331アーツ千代田[東京都]

「ソウルー東京1989-1994」とサブタイトルにあるように、韓国に留学した1989年から94年まで、デビュー前後の5年間に撮りためた写真から700点近くを選んで展示している。大半はモノクロプリント。韓国時代は、まるでもの派のように道端に鉄板が置かれていたり、角材が鉢植えにコンクリートで固められていたり、落書きを消すために白く塗られた部分に落書きされていたりという、路上観察学的な写真が多数ある。これは韓国ならではの珍しさからカメラを向けたというより、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートとの類似性や、「I am not doing, but being(なにもしない、ただあるだけ)」という存在への共感から撮られたものだろう。そしてここから初期の鍵穴型オブジェやハト除け作品が発想されたことがわかる。これらの写真はいわばアイデアのデータバンクの役割も果たしていたようだ。92年に帰ってからも路上観察学風の物件は撮られているが、それより仲間のアーティストたちのポートレートや制作風景などドキュメント風の写真が増えていく。「中村と村上」展の村上隆をはじめ、「ザ・ギンブラート」「新宿少年アート」の中ザワヒデキ、小沢剛、岩井成昭らだ。傍観者から、つくる側、主催する側へと立場が変化していくプロセスが読みとれる。全体を通して繰り返し登場するのは、路上に置かれた石やコンクリートの突起物、ボウリング場のピンのハリボテ広告、玄関にとりつけられたライオン錠など。どれも男性的、ファルス的なのが意味深だ。写真のほかに、新作の絵画と彫刻もある。自動車の車体に使われる塗装を施した湾曲した平面と、各地の民芸品の人形を同じ製造技術で等身大に立体化したもの。まあこれを絵画・彫刻と呼ぶかどうか。どちらも90年代にプランニングしたものを今回実現させたそうだ。

2015/10/10(土)(村田真)

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2015年11月15日号の
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