artscapeレビュー
篠山紀信展 快楽の館
2016年10月15日号
会期:2016/09/03~2017/01/09
原美術館[東京都]
事前の予想と実際の展示が、これほどぴったり一致する展覧会もむしろ珍しい。篠山紀信が東京・品川の原美術館を舞台にヌード写真展を開催すると聞いたとき、こんなふうになるのではないかと想像した通りの展示が実現していた。
1938年建造という個人住宅を改装した原美術館の、敷地内のあちこちで撮影されたヌード写真が、ほぼ等身大に引き伸ばされて、撮影場所やその近くに貼り付けてある。マネキン人形のようにポーズをとったり、飛んだり跳ねたりしている彼女たち(男性モデルもいる)は、大部分がプロフェッショナルなヌードモデルだろう。ポーズや表情は自然で、裸を見られることに慣れきっている様子がうかがえる。彼女たちをコントロールし、画面におさめていく篠山の手つきも、まったく破綻がない。これまで長年にわたって積み上げられてきた、ヌードを撮る、見せるテクニックが惜しみなく注ぎ込まれ、観客を充分満足させる画像が提供されている。実際に通常の展示よりも、観客数は大幅に伸びているようだ。
ただ、ここまで「想定内」の展示を見せられると、「これでいいのか」と無い物ねだりをしてみたくなってくる。かつて、ヌードを撮る、見せることは、ショッキングで挑発的な行為だった。むろん、篠山のヌード表現が輝きを放っていた1970~80年代の状況を、いま再現するのは不可能なことだ。それでも今回の展示は、写真家も、モデルも、観客も、安全地帯を一歩も出ずに、安心し切ってまどろんでいるようにしか見えない。有名モデルが乳首や陰毛を露出できないのはわかるにしても、やり方次第では、もう少し意表をついた、スリリングな展示も可能だったのではないだろうか。
2016/09/14(水)(飯沢耕太郎)