artscapeレビュー
操上和美「ロンサム・デイ・ブルース」
2017年01月15日号
会期:2016/11/25~2017/01/16
キヤノンギャラリーS[東京都]
以前、操上和美から「日々、目の鍛錬をしている」と聞いたことがある。仕事で撮影する写真とは別に、つねにカメラ(カメラ付き携帯電話を含めて)を持ち歩き、目につくものをスナップ撮影しているということだ。今回キヤノンギャラリーSで開催された「ロンサム・デイ・ブルース」展の出品作も、その「鍛錬」の成果といえそうだ。
操上が撮影したのは「人々の欲望を呑み込んで、ダイナミックに変貌し続ける渋谷」の夏の光景である。とはいえ、ランドマークが写り込んでいる数枚の写真を除いては、それらが渋谷で撮られた写真と気づく人は少ないのではないだろうか。主に広角系のレンズで切り取られた眺めは、むしろ無国籍的な様相を示している。いま世界各地に蔓延しつつある、グローバルな「都市的なるもの」のあり方が、的確に浮かび上がってくるのだ。操上の反応は、視覚的というよりはどちらかといえば触覚的だ。ブルーシート、割れたガラス、ひび割れたコンクリート、そして女性のカーリングした髪の毛などの“異物”が、皮膚感覚的にコレクションされている。雑多な色味の眺めを、モノクロームの画像に還元することによって、都市風景を触覚的に再構築しようという意図がより強調される。横位置の大判のプリントを、黒い壁(一面だけが白)に一列に並べた会場構成も、すっきりと決まっていた。
操上は1936年生まれ。ということは、今年80歳を迎えたということだ。スナップショットの写真家としての、しなやかで、敏捷な身体的反応をキープし続けているのは、それもまた「鍛錬」の賜物といえるだろう。
2016/12/12(月)(飯沢耕太郎)