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台徳院殿霊廟模型

2017年01月15日号

増上寺宝物展示室[東京都]

昨年、徳川将軍家の菩提寺である増上寺に、「台徳院殿霊廟模型」の常設展示を目的として、宝物展示室が開設された。台徳院殿霊廟とは、1632年に徳川家光公(三代)が秀忠公(二代)を祀るため、境内に造営した御霊屋。これは国宝に指定され、「日光東照宮に先立つ原型」ともいうべき豪華絢爛な建築群であったが、大戦の火災で焼失してしまった。これまではその姿を限られたモノクロ写真から想像するしかなかったのだが、英国王室に献上後ロイヤル・コレクションとして長らく保管されてきた同模型が、100年以上の時を超えて里帰りした。といってもこれはただの建築模型ではない。明治期に東京美術学校の高村光雲(彫刻)、古宇田実(建築)らの監修のもとに制作された、非常に精巧な10分の1スケール(全体で4×6メートル)のもの。1910年の日英博覧会で展示後、キュー・ガーデンの室内で公開されたが、その後に解体、倉庫で保管されていたという。このたびそれを修復したうえで組み立て直し、内部の構造と装飾が見えるようにと、本殿の屋根と本体を外して別々に展示している。狩野探幽ら名だたる絵師や棟梁が参加して造営されたオリジナルと同じ構築材料・工法・彩色技法を用いて、建築細部まで忠実に再現した技術と執念。とにかく明治の超絶技巧といっていい。明治時代に来日した英国人デザイナー、クリストファー・ドレッサーは日光東照宮を激賞したことで知られるが、その訪問より先に増上寺を訪ねて、同霊廟の壮麗さにも感服している。同模型は、歴史的資料の点からしても価値が高い。[竹内有子]

2016/12/17(土)(SYNK)

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