artscapeレビュー
村松卓矢『バカ』
2017年01月15日号
会期:2016/12/15~2016/12/23
大駱駝艦・壺中天[東京都]
まさかのトランプ大統領選勝利はいうまでもなく、世の中「バカ」がまかり通っている。そんな中での村松の新作タイトルが『バカ』。舞踏はあえて「バカ」になることで舞踏家が世界の暗部を照らし出してきた。だから村松のタイトルは舞踏の正統的な自己表現とも言えるのだが、なにぶん、愚かしさが世界のあちこちで幅を利かせている状況で舞踏の「バカ」はどう機能しうるのかが気になる。最初は魚、次に動物と人間と、ダンサーたちは顔にマスクをつけて踊る。村松演じる老人は次に現れる金属の爪をつけた人間(→ロボット)に座を奪われる。なるほど「生命の神話」とでも言えそうな物語が、本作の流れを作ってゆく。ロボットの次は、鬼の形相の白髪の女が座を奪い、その女によって老人に似た赤子(村松)が出産される。村松は寝そべって、「バカ」「アホ」などと罵る声を浴び続ける。最後は、体をあげ満面の笑顔でその声を受け止める。「笑顔」と言ってみたが、なんとも言えない「全肯定」の表情なのだ。その表情は、単に「バカ」を批判することも、事も、単に「バカ」を利用して生きることも超えて、あるいはそれらを包摂して、人類のバカさ加減とともに生きることを表明しているかのようだった。こういう表現が舞踏ならばできる。舞踏は強いと思わずにはおれなかった。日本のダンスを牽引してきた室伏鴻も黒沢美香もいない世界で、まるで草っ原のようだと思うこともあるのだけれど、大駱駝艦の底力を感じる。淡々と地道に一歩一歩進んでいる彼らは、時代錯誤のように思われることもあるやもしれない(来年は結成45年を迎えるそうだ)が、むしろ時代とちゃんと一緒に生きているのだ。
2016/12/22(金)(木村覚)