artscapeレビュー
endless 山田正亮の絵画
2017年01月15日号
会期:2016/12/06~2017/02/12
東京国立近代美術館[東京都]
初期の「Still Life」シリーズから、代表作の「Work」シリーズ、晩年の「Color」シリーズまで約220点による大回顧展。戦後まもなく始めた「Still Life」は、ピカソやモンドリアンのように静物画の解体から再構築、抽象化にいたる過程がたどれ、50年代なかばから40年近く続いた「Work」は、ジグソーパズルみたいな形態の組み合わせから、同心矩形、水平方向のストライプ、矩形の画面分割、表現主義的なタッチにいたる展開が見られ、最後の「Color」は青、緑、赤などほとんど単色の画面に行きついている。なかでも圧巻なのが、全体の半数近くを占めるストライプ絵画だ。ほぼ60年代を通して描かれたこのシリーズでのちに評価を得ることになるのだから、大きく扱われるのは当然かもしれないが、色やサイズは異なるとはいえ、評価もされないうちからよく10年間もストライプばかり描き続けたもんだと感心する。よほど強靭な信念を抱いていなければできないことだ。
でも意地悪な見方をすれば、10年後20年後にウケることを見越して計画を練り、予定どおり実行してきた確信犯だったのではないかと見ることもできる。実際、彼は90年代なかばに「ひとつの円環を形成」した、つまりやるべきことはやり尽くしたといって「Work」シリーズに終止符を打ってしまうのだ。ということは、40年におよぶ「Work」シリーズは、どこに行きつくかわからない絵画の冒険だったというより、あらかじめ着地点が想定されたひとつの壮大なプロジェクトだったといえなくもない。ってことは、その後の「Color」シリーズは「Work」とはなんの関係もない老後の楽しみだった、という見方も可能になる。そんなことありうるんだろうか、そんな割り切った考え方をする画家がいること自体、ちょっと信じられない。でももしそうだとしたら、それは凡庸な画家の思惑をはるかに超えている点でスゴイことだと思う。
さらに彼は作品台帳をつくって自分のすべての作品を管理していたという。これは見習うべき習性ではあるけれど、逆にその気になれば作品のデータを意図的に操作することもできるということだ。じつは山田は作品の制作年を偽ったとされ(学歴も東大中退と詐称)、90年代に評価が割れた。学歴詐称は人格が疑われる程度で済むが、制作年詐称は作品評価に直接響き、美術史上の位置づけを揺るがす。その疑惑を告発したのが美術評論家の藤枝晃雄であり、そして彼こそ山田を最初に正当に評価した人物にほかならない。にもかかわらず、というより、それゆえになのか、同展のカタログのなかで藤枝の名は巻末の参考文献を除いてまったく出てこない。なんともすっきりしない思いが残るのだ。制作年を偽ったかどうか真相はわからないし、万一偽ったとしても些細な範囲だろうけど、それでも疑惑があるというだけで、作品を見る目は大きく変わらざるをえない。作品を見る限り偉業としかいいようがないだけに残念。
2016/12/06(火)(村田真)