artscapeレビュー
小橋ユカ「針が飛ぶ」
2010年12月15日号
会期:2010/11/09~2010/11/21
GALLERY SHU HARI[東京都]
東京・新宿から四谷にかけては、写真家たちがスペースを借りて自分たちで運営するギャラリーが多い。これらの小ギャラリーは自主運営ギャラリー、あるいはインディペンデント・ギャラリーと呼ばれるのだが、どうやら日本以外ではあまり見かけない形のようだ。欧米や他のアジアの国々では、ギャラリーのマネージメントは別な人が担当するのが普通であり、日本のように写真家(アーティスト)が企画・運営にまでかかわることはあまりない。だが自分たちの作品発表の場をきちんと、定期的に確保する場として、1970年代以降、自主運営ギャラリーは日本の写真表現の展開において重要な役割を果たしてきたし、今後もさらなる可能性が期待できそうな気がする。
そんな自主運営ギャラリーのメッカともいうべき四谷3丁目に、またひとつ新しいギャラリーができた。吉永マサユキが主宰する写真ワークショップ、レジストの卒業生、10名をメンバーとするGALLERY SHU HARIである。10月のメンバーによるオープニング展を経て、今回の小橋ユカの個展「針が飛ぶ」で本格的にスタートした。小橋はこれまでコニカミノルタプラザやTAPギャラリーでも個展を開催している力のある若手写真家だが、いまちょうど転機にさしかかっていると思う。路上スナップを中心に、身近な事物、近親者、風景などさまざまな被写体を、それなりに手際よく撮影し、プリントしていくことができるようになったのだが、それらをむしろセレクトして、自分のスタイルにまで固めていく時期にきているのではないだろうか。展覧会の挨拶文に「生暖かい脱力」という言葉があってなるほどと思ったのだが、たしかにふわりと垂れ下がったり、液体のように広がっていったりしているものに対して、鋭敏に反応しているような気がする。そういう被写体に意識を集中していくと、彼女らしい写真の形が見えてきそうだ。
2010/11/16(火)(飯沢耕太郎)