artscapeレビュー
三瀬夏之介「肘折幻想」
2010年12月15日号
会期:2010/10/02~2010/10/23
imura art gallery[京都府]
三瀬夏之介が山形に移住して初めての京都での個展。十曲一隻の屏風絵の大作《肘折幻想》は、「肘折版現代湯治2009」の際に発表された作品で、肘折が1万年前の火山の爆発によって形成された地であることから着想を得て取材をもとに制作された。連なる山々に覆いかぶさるように煙が立ち上る噴火と雪深い大地の光景は、極寒の厳しさや悲劇的な物語ではなく、これまでの三瀬の作品にも見られる無数の星や、花火が天空に打ち上がる模様が描かれていて、どこか祝福にもあふれた印象がある。画面に優しく穏やかな表情の数人の人物像を見つけたのだが、聞いてみるとそれらは「お地蔵さん」だった。肘折には「地蔵蔵」といういまも多くの人が訪れるという霊場の洞窟があるが、信仰の場として長い歴史を培ってきた場や、そこにある人々の生活の営みへと容易に想像を巡らせる。じっくりと見ていると、圧倒的に厳しい自然のなかで生きる人々、そしていまそこに住む三瀬のリアルな感覚が全面に現われている気がした。その三瀬の身体感覚そのもののように感じたのが、和紙をつなぎ合わせて描かれた山の形の《千歳》。 墨の濃淡、画面の凹凸、ダイナミックに構成されながら繊細な筆の跡が確認できる部分の数々など、彼が山形で触れるもの、そこから感じ取っているものが凝縮しているように思えた。今展で本人に会うことは叶わなかったが、作家の生々しい感覚が充満する会場で、今後の活動がいっそう楽しみになった。
2010/10/22(金)(酒井千穂)