2021年06月01日号
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artscapeレビュー

『ねもは 01』

2010年12月15日号

発行所:ねもは

発行日:2010年

2010年12月、文学フリマにてデビューした建築系同人誌である。
東北大の大学院生、市川紘司の編集と企画によって実現されたものだ。内容は、特集「絶版★建築ブックガイド40」のほか、大室佑介、斧澤未知子、加茂井新蔵による論考を収録している。なお、鈴木博之著の『建築は兵士ではない』から始まる、40冊のセレクションは、編集後記によれば、『建築の書物/都市の書物』(INAX出版)、ならびに『建築・都市ブックガイド21世紀』(彰国社)との重複がないことが意図されており、補完しながら読むべきテキストという文脈になっている。若手の執筆者が、現在流行の建築家を論じるなら、いかにもありそうなのだが、過去の絶版本をいまの文脈から再読するという企画は、なかなかユニークである。いずれの書評も、著者の紹介や本の背景など、守るべき最低限のルールがきちんとクリアされており、多くの執筆者の寄稿であるにもかかわらず、あまりむらがない。実際、既存の雑誌の書評でも、こうした基本的なことができていないものが少なくないことを考えると、評価すべきポイントだと思う。文字数も充分ある。図版やイメージ、あるいは対談や語りよりも、文字を中心とする、久しぶりの密度の高い建築批評誌としても重要である。とりわけ、「擬似建築試論」(「.review001」2010年)の続編を執筆している、加茂井新蔵の評論は本格的だ。
本書のもうひとつの大きな意義は、1980年代生まれの書き手が、これだけまとまったかたまりで可視化された初の試みであることだ。おそらく、現在も『建築文化』や『10+1』などの紙による雑誌が継続していれば、寄稿していたであろう若手が、自らメディアを立ち上げた状況は、きわめて現在的である。筆者もかつて大学院生のとき、南泰裕や槻橋修らと『エディフィカーレ』という同人誌を刊行した。その後、若手の自主メディアの系譜としては、90年代後半にぽむ企画のホームページが登場し、ゼロ年代には藤村龍至によるフリーペーパー、「ラウンド・アバウト・ジャーナル」が新しいシーンを生みだしている。『ねもは』の出現は、それに匹敵するインパクトだ。実は、巻頭言や前書きがなく、いきなり特集が始まる構成に意表をつかれたのだが、方向性を示すマニフェストはあえて掲げていない。次の課題は継続することだろう。

http://nemoha.web.fc2.com/

2010/11/30(火)(五十嵐太郎)

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