artscapeレビュー

向後兼一「世界と向き合うために」

2010年12月15日号

会期:2010/10/30~2010/11/20

art & river bank[東京都]

小橋ユカと対照的なスタイルながら、やはり同じように転機を迎えているように思えるのが向後兼一。2000年代初頭にデビューした彼は、デジタル画像を加工して作品を制作し始めた第一世代にあたる。フォトショップのような簡易なソフトを使って、風景の意味をずらしたり再構築したりする彼の作品は、2006年に東京国立近代美術館で開催された「写真の現在3:臨界をめぐる6つの試論」に選出されるなど、一定の評価を受けてきた。今回のart & river bankでの個展「世界と向き合うために」の出品作も、基本的にはその延長上にある。工事現場や飛行場の風景の画像に細いスリットを入れ、もうひとつの画像ではそのスリットに全画面を圧縮しておさめるという手法で制作されたシリーズなど、その画像処理のセンスのよさは際立っている。
だが、2000年代初頭には新鮮なショックで受け入れられたデジタル加工のアイディアが、いまやかなり見慣れたものになってしまっていることも否定できない。今回の展示に、まったく加工を施していない青空と雲のシリーズや、飛行場のようにあらかじめ特定の意味づけが為されている場所のイメージが増えてきているのは、彼自身もそのことを意識し始めているからだろう。この“過渡期”をポジティブに乗り切ることで、もうひとつ突き抜けた表現に到達してほしいものだ。

2010/11/18(木)(飯沢耕太郎)

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