artscapeレビュー

三浦展+SML『高円寺 東京新女子街』

2010年12月15日号

発行所:洋泉社

発行日:2010年9月24日

50のキーワードから読み解く、三浦展+渡和由研究室『吉祥寺スタイル』(文藝春秋、2007)に続き、高円寺の本が刊行された。今度は、コンビニ研究(『10+1』24号)や広場研究を行なう、女性建築家のユニットSML(西牟田奈々+和田江身子)がパートーナーである。それは近年、高円寺が「森ガール」の聖地と呼ばるようになり、かわいいお店が増え、女子の街として人気を集めているからだろう。住みたい街のランキングも上昇している。フィールドワークにもとづく、街の詳細な観察は、SMLならではの手法であり、大きな美しい写真ではなく、こまごまとした写真は高円寺にふさわしい。例えば、看板、階段、郵便受けなど、テーマ別のヴィジュアル比較である。街の魅力を一冊の書籍で紹介する形式として、吉祥寺本も高円寺本も楽しめる内容だ。路上観察学のトマソンのようなアート的な見立てのインパクトではなく、細かい差異を発見する姿勢が現代的である。
ただ、一点気になるのは、中央線沿いの街に対する無条件な称賛だ。筆者も吉祥寺に長く住んだ経験があり、この街の良さはよく知っている。だが、郊外の風景や過防備化する都市への批判として、中央線沿いを対比的にもちあげるだけでよいのか?逆立ちしても、郊外は高円寺にはならないだろう。本気で社会の郊外化を心配するなら、中央線沿いのユートピア的な素晴らしさに酔いしれるだけでは不十分のように思われる。

2010/11/30(火)(五十嵐太郎)

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