artscapeレビュー

2013年02月15日号のレビュー/プレビュー

澤田知子「SKIN」

会期:2013/01/12~2013/02/24

MEM[東京都]

12点のシリーズ。すべて同じブティック内で撮った下半身のみの写真だが、スカート、ストッキング、靴、そしてポーズはすべて異なっている。足は細めなので失礼ながらご本人ではないようだ。ということは、これまでのセルフポートレートから一歩踏み出す新たな展開ということになる。解説によると、これは偶然重なった2本の制作依頼のうちのひとつで、「産業、社会と領域」をテーマにしたもの(ちなみにもうひとつの制作依頼は「サイン」で、これは国立新美術館の「アーティスト・ファイル」で発表するらしい)。なぜスカートやストッキングが産業や社会に結びつくのかといえば、女性の社会進出に関係があるそうだ。ここからジェンダー問題を浮かび上がらせることもできるが、しかしはっきりいって澤田本人の顔が写ってないのが最大の弱点だろう。

2013/01/16(水)(村田真)

「クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」展

会期:2012/12/21~2013/02/11

愛知県美術館[愛知県]

愛知県立美術館の「クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」展は、重要なコレクション作品に焦点をあてるが、クリムトの絵画そのものはさほど多くなく、むしろその文化的、あるいは時代の背景をていねいに紹介する。個人的には、彼らの雑誌『ヴェル・サクルム』の各号、ホフマンやモーザーによる家具のデザインなど、周囲の状況に関心があるので、興味深いものだった。当時は議論を巻き起こしても、いまや歴史化されているのを見ると、グループを結成し、自ら雑誌をつくり、展覧会を行なうことの重要性を改めて感じる。それにしても、象徴主義から影響を受け、独自の世界観を生んだクリムト的なものは、ひとつの発明であり、その後のサブカルチャーにも充分浸透していた要素だと改めて思う。

2013/01/16(水)(五十嵐太郎)

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有元伸也「ariphoto 2013 vol.1」

会期:2013/01/15~2013/01/27

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

有元伸也は、自分の名前を冠した「ariphoto」と題するシリーズの発表を、2006年から年数回のペースで続けている。最初から6×6判のモノクローム路上スナップ、しかも新宿界隈のみで撮影というルールは厳格に定まっており、いささかの揺るぎもない。だが、会場に置いてあった、初期作品をまとめて掲載した写真集と今回の作品とを比較すると、微妙な違いがあらわれてきていることがわかる。
最初の頃は、中心となる被写体にストレートにカメラを向け、それを画面の中心に据えるような写真がほとんどだった。ところが近作になると、レンズがやや広角になり、被写体の周辺の雑踏を写し込むようになってきている。しかも、やや高い歩道橋のような場所から街を俯瞰した写真や、ホームレスらしい老人の頭(傷口がホッチキスのような金具で留められている)の上から覗き込むように撮影した写真など、多様なアプローチが目につくようになった。つまり、街頭のさまざまな要素が多次元的にせめぎあう様子に、有元の関心が向き出しているということではないだろうか。
このような変化は、僕には好ましいものに思えた。有元の路上スナップはもはや古典的と言えるほどの風格を備えているが、その完成度は諸刃の剣とも言える。2000年代以降、都市の構造が流動的に変質し、彼自身の生のあり方も変わっていくなかで、写真もまた脱皮を重ねていくべきではないだろうか。それこそが、彼自身と写真とが融合した「ariphoto」の本来あるべき姿であるはずだ。

2013/01/17(木)(飯沢耕太郎)

東川町国際写真フェスティバル ポートフォリオオーディション受賞作品展

会期:2013/01/16~2013/01/20

横浜赤レンガ倉庫 1号館[神奈川県]

2012年度の北海道・東川町国際写真フェスティバルの公開ポートフォリオオーディションで選ばれた3名、小林透(グランプリ)、奥村慎、山元彩香(以上、準グランプリ)の作品展が、ヨコハマフォトフェスティバルの行事の一環として開催された。地域ごとに開催されるフォトフェスティバルもずいぶん増えてきたので、その相互交流の第一歩として重要な意味を持つ企画と言える。
僕自身も鷹野隆大(写真家)、高橋朗(フォト・ギャラリー・インターナショナルディレクター)、沖本尚志(編集者)、邱奕堅(1839富代藝廊キュレーター、台湾)とともに東川の審査に加わっていたのだが、応募のレベルはかなり高く、結果的にとても面白い作品を選ぶことができた。2009年以来、家族の写真を日々大量に撮影し続け、アルバムに貼りつけていく奥村の作品や、少女が「何かわけのわからない存在」に変身していくプロセスを刻みつけた山元のポートレートの連作(撮影地はエストニア)も意欲的な作品だが、やはり最大の問題作は小林の発達障害(自閉症)の弟をモデルにした「あの快い夜におとなしく入っていってはいけない」だろう。発作を起こして感情をコントロールできない弟にカメラを向けたり、裸にしてジャムを塗り付けたり、女性を巻き込んで「恋愛ごっこ」のような状況を設定したりする小林の行為は、見方によっては写真家のエゴや暴力性をむき出しにしたものと受け取られかねない。実際に1月17日におこなわれた審査員と受賞者とのトークでも、会場からモラル的にやや問題があるのではないかという質問が出ていた。
だが、写真を撮ることによって、自分と弟の関係が明らかにポジティブに変わってきたという小林の発言は貴重なものであり、写真の荒ぶる力をなだめつつ有効に活用していく可能性を感じさせる。むろん彼の写真行為はまだ完成途上にあり、もう少し注意深く見守っていく必要がある。それでも、このような作品が選ばれたことはとてもよかったと思う。次回も刺激的な作品に出会いたいものだ。

2013/01/17(木)(飯沢耕太郎)

胎内巡りと画賊たち──新春 真っ暗闇の大物産展

会期:2013/01/10~2013/01/20

京都伝統工芸館内 京都美術工芸大学付属京都工芸美術館[京都府]

「新しい物産」というテーマで、観光地の土産ものの置き物やこけしなど、“民芸品”をモチーフに作家たちが制作した“オリジナル民芸品”を展示したグループ展。中心メンバーは東京の画家集団「画賊」で、ゲストとして天野萌、木内貴志、木村了子など関西在住の作家も出品していた。会場ははじめに、豆電球のついた小さな提灯を持って暗がりのなかで作品を鑑賞する「胎内巡り」の空間が設えられており、それを抜けると明るい「新しい物産」展の展示室へと続く。建築ユニットmono.による「胎内巡り」は、ダンボール箱で構成した高い壁が道をつくる空間になっていて、作家たちの作品はその壁面や床に展示されていた。「新しい物産」展のほうは国内外の民芸品と作家たちによる“オリジナル民芸品”がごちゃまぜに入り混じる空間。ブラックユーモアの効いた作品もちらほらあるのだが、そのどれにもキャプションも作家名も記されていないため、どれが誰の作品なのかは不明。しかし、めいめいのマニアックなキャラクターやアクの強さがないまぜに置かれた会場は想像も掻き立てられてなかなか面白かった。
個人的に興奮したのは長崎の郷土玩具《鯨の潮吹き「善蔵型」》。長崎くんちの曳物(ひきもの)をモデルにした小さなこの伝統玩具、じつは今展の参加作家である前田ビバリーこと前田真央によって復元されるまで、30年以上も廃絶していたのだという。前田は1988年生まれのまだ若い女性だが、この復元に至るまで一人でこつこつと現地の取材や制作の研究を重ねてきたという。廃れゆく各地の郷土玩具はたくさんあるし、それを惜しむ人も多い。そんななか、すでに廃絶したそのひとつを自らの手で見事に蘇生させた前田の情熱と行動力に感服するばかりだ。さらに頼もしいのは彼女がオリジナル(張り子)作品を手がける作家であることだ。伝統に新鮮な風を吹き込む存在としての今後の彼女の活躍にも期待が膨らむ。嬉しい出会いだった。

会場風景


復元された長崎張り子《鯨の潮吹き》

2013/01/18(金)(酒井千穂)

2013年02月15日号の
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