artscapeレビュー

2013年02月15日号のレビュー/プレビュー

二川幸夫「日本の民家 1955年」展

会期:2013/01/12~2013/03/24

パナソニック 汐留ミュージアム[東京都]

・パナソニック汐留ミュージアムの二川幸夫「日本の民家 1955年」展へ。会場構成は藤本壮介によるもの。彼らしい離散配置された写真の森をさまよい歩く。日本各地の民家の撮影は、二川の原点となる仕事だが、現在から見ると、解村される前のぎりぎりのタイミングで記録された生きる民家と言える。土着的な地域にねざした民家は、どれも強い個性をもつが、とくに富山県上平村・越中桂の民家がすさまじい存在感を放っていた。

2013/01/18(金)(五十嵐太郎)

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コレクション×フォーマートの画家 母袋俊也「世界の切り取り方」

会期:2012/12/01~2013/01/27

青梅市立美術館[東京都]

今日は午後から立川に用があるのでその前に青梅まで足を伸ばしたが、そんなことでもなければここまで来なかったかもしれない。結論からいうと、来てよかったー! 最初はなんで青梅くんだりでやるのか、もっと都心でやってくれよんと思ったけど、来てみてわかった。これは青梅市立美術館でなければ成立しない、青梅市美ならではのサイトスペシフィックな絵画なのだ。美術館に入ると1階の奥に、木々の隙間から多摩川や遠くの丘陵を見渡すことのできるガラス窓のホールがあり、母袋はここに6台の《絵画のための垂直箱窓》を設置している。この「箱窓」は暗箱になっていて、穴をのぞくと縦長か横長のスリット(窓)を通してガラス窓の向こうの景色がながめられる仕掛け。いいかえれば、世界を強制的に枠づけてしまうという「フレーミング装置」なのだ。これとは別にガラス窓には青いテープが矩形に貼られ、「世界の切り取り方」が例示されている。余計なお世話ともいえるが、啓蒙的に絵画の原理を説いてくれる母袋らしい展示だ。しかしここまでならこれまでにも見てきたし、予想もついたことだが、2階の展示は予想を超えていた。ふつう個展といえばその人の作品だけを並べるものだが、母袋は「世界の切り取り方」というテーマに沿って、青梅市美のコレクションから選んだ作品も並べているのだ。たとえば「縦長」のコーナーでは平福百穂や山本丘人らの掛軸を、「横長」では小島善太郎や速水御舟らの風景画を並べ、ちゃっかり自分の作品もまぎれ込ませている。また、同じ画家の同じモチーフを描いた同一サイズの、しかし縦長と横長の2種を対比的に並べたりもしている。同館には2,000点を超すコレクションがあるらしいけど、よくこれだけテーマにふさわしい作品が見つかったもんだと感心する。美術館のロケーションやコレクションを計算に入れ、自分の作品の一部に採り込んでしまった希有な個展といえる。今年のベスト1だ(ってまだ始まったばかりだけど)。

2013/01/19(土)(村田真)

田村葵「out of the fantasy」

会期:2013/01/12~2013/01/20

祇をん小西[京都府]

昨年は、京都の大河内山荘に新しく建てられた庵、妙香庵の襖絵という大作も手がけた田村葵。今回個展を開催していたのは多くの観光客で賑わう祇園花見小路の元“お茶屋さん”を改修したギャラリースペースだった。ギャラリーといってもこちらは「おくどさん」の名残りもとどめた土間もある、京都の古い家屋の佇まいをそのまま残した建物で畳の部屋が展示スペースである。今展では立体と平面による《out of the fantasy》という一連の新作がこの空間にインスタレーションされた。どの作品もほとんど色は使われておらず、余白を残した画面に墨で自然の風景、少女が遊ぶ姿などがまばらに描かれている。一見、描き方やそのモチーフに強い存在感はないのだが、近づいて見ると水面やシャボン玉に周囲の景色が映り込む情景、輪郭ははっきりしているが映像を重ねたように図と背景が溶け合うイメージなど、墨の濃淡と筆使いによる表現が繊細であるのがわかる。さらに、描かれたそれらの儚げなイメージは、例えば一面の窓ガラスや台座など、展示空間のあちこちに鏡面反射し、映り込むようにも意図されていた。現実と幻想のあわいというイメージを実際の空間にも創出しようというその試みは興味深い。できれば他の会場空間でも見てみたい。


会場風景


田村葵《out of the fantasy》(部分)


田村葵《山1302》

2013/01/19(土)(酒井千穂)

武蔵野美術大学建築学科 芦原義信賞・竹山実賞、卒業制作選抜講評会

武蔵野美術大学[東京都]

武蔵野美術大学にて、審査を担当した芦原義信賞の授賞式に出席した。今回選んだのは、梶原紀子が栃木県で企画運営している、もうひとつの美術館である。廃校となり、存続が危ぶまれていた木造校舎をリノベーションによって救い、ハンディキャップのある人のアートを専門に展示する施設だ。いまでこそ、類似したスペースはだいぶ増えたが、これを10年も前にオープンさせ、しかもずっと継続させてきた実績を高く評価した。それにしても、武蔵野美術大学の建築学科は、さまざまなジャンルに人材を輩出していると思う。

2013/01/19(土)(五十嵐太郎)

「てっさい堂」貴道裕子コレクション:美しき日本の小さな心──豆皿、帯留、ぽち袋

会期:2013/01/02~2013/01/20

美術館「えき」KYOTO[京都府]

京都の古門前通りで伊万里の豆皿をはじめとする骨董を扱う「てっさい堂」。今展はその店主、貴道裕子氏の豆皿、帯留、ぽち袋のコレクションを一堂に展覧するというもの。駆け込んだ最終日は案の定多くの来場者、特に女性で賑わっていた。展示を見るために牛歩の列に並んだ帯留の展示コーナー以外は、さほど窮屈でもなかったのだが、なにしろ全体のボリュームが凄い。陳列された豆皿、帯留、ぽち袋は、どれも手のひらに収まる小さなものばかりだが、それらはじつに圧倒的な数量で、会場をふと見渡して呆然としたほど。感心というより感服だ。見てまわるのにとにかく時間がかかるのだが、模様や装飾、モチーフの可愛らしさ、繊細な美しさ、ユニークなテーマやシリーズものの面白さなど、どれも魅力がある。圧巻はやはり帯留の装飾であった。趣向が凝らされた展示ケースや展示法も、見応えのある展覧会であった。

2013/01/20(日)(酒井千穂)

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