artscapeレビュー

2013年05月15日号のレビュー/プレビュー

伊吹拓 展「“ただなか”にいること」

会期:2013/03/15~2013/05/05

the three konohana[大阪府]

大阪市此花区にできた新しいギャラリー「the three konohana」の第一回目の展覧会として伊吹拓の個展が開催されていた。なによりも約10メートルあるというこの会場の壁面に展示された3点の大作が圧倒的な存在感と迫力だったのに吃驚。色彩やタッチなどその表現はこれまでに見た伊吹の作風とも異なるもので、作家の新たな挑戦とその気概を感じさせる力強さも印象的だった。大通りに面した窓辺には小作品が並び、奥にある6畳の和室では、会期中も加筆し続けられて変化しているという大作も。このギャラリーは独特の空間も活動コンセプトも興味深い。今後開催される展覧会へ足を運ぶのを楽しみにしている。




展示風景

2013/04/27(土)(酒井千穂)

《久慈市文化会館アンバーホール》《田野畑中学校・寄宿舎》ほか

[岩手県]

4日間かけて、八戸から南下し、福島までを縦断。透明な円錐形のヴォリュームによってアブストラクト・シンボリズムを表現した黒川紀章の久慈市文化会館アンバーホールや野田を経由し、東日本大震災の津波を防いだことで有名になった普代村の巨大防潮堤を訪れた。田老地区のスーパー堤防に比べて、長さは全然ないが、確かにすさまじい高さである。上に登って見渡すと、空っぽになったダムの中の村というべき風景だ。田野畑村では、穂積研究室や古谷誠章らによる質の高い建築群を見る。中学校の寄宿舎は傑作だ。一方、建て替えになった中学校は、残念ながら道の駅スタイルに変わっている。続いて、田老、宮古、山田町、大槌を久しぶりに訪れる。あれだけあった瓦礫は消えた。が、前に瓦礫の街を見ていなければ、果たしてそのことを想像できただろうか。

写真:左上=黒川紀章《アンバーホール 久慈市文化会館》、右上=普代村、左下=早稲田大学穂積研究室+古谷誠章《田野畑民俗資料館》、右下=穂積信夫《田野畑中学校・寄宿舎》

2013/04/27(土)(五十嵐太郎)

小野規「東北─247日目から341日目に」

会期:2013/04/13~2013/05/05

アンスティチュ・フランセ関西 京都サロン3F[京都府]

小野規が「京都グラフィー」の展示の一環として開催した「東北─247日目から341日目に」展は、これまで数多く発表されてきた「震災後の写真」の展覧会とは、やや異なった感触を与えるものだった。彼はスイスの建築雑誌『TRACÉS』の依頼を受けて、2011年11月から2012年2月にかけて、岩手県宮古市から宮城県を経て福島県相馬市に至る東日本大震災の被災地を、3回にわたって撮影した。この震災当日から8ヶ月以上経過している時期というのが、なかなか微妙だと思う。すでに震災直後の混乱はおさまり、瓦礫の片付けも進んでいる。とはいえ、特に沿岸部にはまだ生々しい津波の傷跡がくっきりと残ったままだ。
小野は撮影にあたって、「被災というドラマを撮ることよりも、波の到達した縁の部分をなぞる」ことを心がけたのだという。そこから見えてくるのは「破壊され、変形し、自然の形態(フォルム)との境界が曖昧に」なってしまった「戦後経済のかたち」だ。東北の風景を、日本の戦後の経済発展(とその停滞)のフロントラインとして捉える視点はとても興味深い。それを可能としたのが、自分を「19世紀なかばに、エジプトやメキシコで考古学資料を撮影していた写真家」になぞらえるような小野の撮影の姿勢だろう。その淡々と、冷静に距離を置いて撮影された写真群を、あまりにも素っ気なく取り澄ましたものと感じて忌避する人もいるかもしれない。だが美学的なアプローチを注意深く回避して、あくまで「考古学資料」として写真を提示することに徹するという彼の選択は、それはそれで貴重な試みではないだろうか。各地の神社とその周辺を、特に入念に撮影しているのもその姿勢のあらわれと言えるだろう。
なお「京都グラフィー」では、小野のほかにも細江英公、マリック・シディベ、ケイト・バリー、アルル国立高等写真学校の学生たちの展示など、京都市内のさまざまなスペース12カ所で写真展が開催され、シンポジウムやワークショップも開催された。時期もいいので、恒例行事として大きく発展していくことが期待できそうだ。

2013/04/28(日)(飯沢耕太郎)

《星めぐりひろば》《KAMAISHIの箱》《みんなの家・かだって》ほか

[岩手県、宮城県]

鵜住居では、宝来館の宮本佳明による星めぐりひろば、釜石では難波和彦の2つのKAMAISHIの箱、伊東豊雄によるみんなの家・かだってを見る。限られた要素でつくられた、シンプルで清々しい建築だ。平田公園では、東京大学が関わった路地デッキやアーケード屋根が付いたコミュニティ型の仮設住宅と、山本理顕によるみんなの家のコンビネーションが相乗効果をもたらしている。その後、大船渡、陸前高田(ビエンナーレの金獅子賞に輝いた伊東、藤本壮介、平田晃久、乾久美子によるみんなの家、セルフビルドでつくられた徳田光弘らによる積み木の家)、そして気仙沼の日本建築大賞となった陶器浩一による竹の会所・復興の方舟、南三陸の宮城大学による番屋などをめぐる。建築家がそれぞれの持ち味を生かしながら、人々が集う新しい場をつくっている。

写真:左上から、宮本佳明《宝来館「星めぐりひろば」》、難波和彦《KAMAISHIの箱》、伊東豊雄《みんなの家 かだって》、平田公園の仮設住宅、山本理顕《みんなの家》、右上から、帰心の会《陸前高田の「みんなの家」》、徳田光弘《小さな積み木の家》、陶器浩一+高橋工業《竹の会所 ─復興の方舟─》、宮城大学竹内研究室《志津川本浜番屋》

2013/04/28(日)(五十嵐太郎)

常設展「東日本大震災の記録と津波の災害史」

リアス・アーク美術館[宮城県]

気仙沼のリアスアーク美術館では、震災の「記憶」を伝える新しい展示がスタートしていた。震災直後から学芸員が撮影した200枚近くの写真、街で収集した被災物、それらの長いキャプション(全部はとても読み切れないほど膨大)を来場者が熱心に見ている。博物館的でありながら、ただの「記録」とはしない。未来への「記憶」につなぐ想像力も膨らませたミュージアムの枠組を越えた手法による展示である。また、被災物に添えられたあえて方言で記したテキストも印象的だった。

2013/04/28(日)(五十嵐太郎)

2013年05月15日号の
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