artscapeレビュー

2013年05月15日号のレビュー/プレビュー

サイモン・フジワラ

会期:2013/03/29~2013/04/27

タロウナス[東京都]

なにやら高そうなコース料理の写真と英語のレシピが貼り出され、足下に建築の設計図が置いてある。嫌だなこういう思わせぶりのインスタレーションは。と思いつつ奥の部屋に行くと、バーの一部が再現され、カウンターの上に英語のメモが置かれている。メモを読むと、1968年8月8日に男女が出会い、このバーで親しく語らったようだ。もういちど前の部屋に戻って設計図を見直すと、それは旧帝国ホテルの図面で、その日の男女の行動が時間軸に沿って糸で跡づけてある。それによると、男は日本人のバンドマスター、女は白人のダンサーで、ふたりは45年前の夏の夜、帝国ホテルのショーで出会い、バーで飲み、一緒に部屋に泊まったらしい。その行動が何時何分という分刻みで記されているのだ。サイモン・フジワラは日本人の父とイギリス人の母をもつハーフなので、これは両親の出会った1日を克明に再現しようとしたものだろう。あるいは架空の物語かもしれないが、いずれにせよここまで細かく示されると、若き日の両親の艶かしい情景まで浮かんできてなにやら切ない気分に襲われる。最初の印象を裏切って、まるで映画1本見たような気分で帰れた。

2013/04/25(木)(村田真)

LOVE展──アートにみる愛のかたち

会期:2013/04/26~2013/09/01

森美術館[東京都]

地下鉄日比谷線の吊り広告にジェフ・クーンズのパクリを発見! と思ったら、六本木ヒルズ10周年の広告で、その記念として開かれる森美術館の「LOVE展」の出品作品、つまりホンモノだった。広告をアートに採り込んだジェフくんの作品を再び広告に利用するとは、さすが森美術館もしたたかっつーか、なんかタヌキとキツネの化かし合いのような気がしないでもない。さて、「ラヴ」といえば恋愛から家族愛、郷土愛、人類愛、そしてセックス、心中、別れまで含めてこれまでつくられた美術品の大半、とはいわないまでも2~3割は「愛」がテーマだといえるのではないか。極端な話なんでも「愛」に結びつけることができるし。だから第1章では広告にも使われたジェフ・クーンズをはじめ、デミアン・ハースト、ジム・ダインらのハート形の作品や、ロバート・インディアナやバーバラ・クルーガーらの「LOVE」の文字を使った作品を集めて、いかにも「LOVE」らしさを強調しなければならなかったのだ。まあテーマなんかどうでもいいわけで、問題はどれだけいい作品と出会えるかだ。おとぎ話に秘められたエロスを刺繍で表現したチャン・エンツー、白人女に迫られコンドームを手にする日本男児を浮世絵風に描いた寺岡政美の《1,000個のコンドームの物語/メイツ》、ラブドールを使ったローリー・シモンズの写真などは優れた選択だと思うし、ジョン・コンスタブル、デ・キリコ、フランシス・ピカビア、フリーダ・カーロ、デイヴィッド・ホックニーらの「古典的絵画」もこんなところで見られるとは思わなかった。別れた男に復讐するTANYの映像《昔の男に捧げる》を見ていたら、横に主演の会田誠が立っていたのも森美術館のオープニングならではのこと。さて、開館記念展が「HAPINESS」、10周年が「LOVE」と来たら、20周年は「PEACE」か、それとも「DEATH」か。まあそれまで美術館が存続していることを祈りたい。ぼくもそれまで生きていたいデス。

2013/04/25(木)(村田真)

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口枷屋モイラ/村田タマ「少女ロイド」

会期:2013/04/17~2013/04/28

神保町画廊[東京都]

口枷を使ったフェティッシュな写真とオブジェの作品を発表してきた「口枷屋モイラ」と、写真家・村田兼一のモデルからスタートして、自分も「大人の童話」のような作品を制作し始めた村田タマによるコラボレーション展である。
「少女ロイド」というのは、「2XXX年、ゆるやかに滅びつつある世界でなき主人のインプットした情報により、2体のアンドロイドが想像で“女子高生”の日常を演じるというSFストーリー」を元にしたシリーズだ。いかにもありがちな設定に思えるが、彼女たちはいたって真剣。豊富なアイディアを、玉手箱を開けるように次々にイメージ化してみせてくれる。特に、写真といろいろなオブジェを箱額に一緒におさめた作品がうまくいっていると思う。1980年代生まれの彼女たちにとって、コスチュームを身につけ、何かのストーリーを演じるという行為が、まったく特別なものではなく、日常の延長で軽々と成し遂げられるものであることがよくわかる。その無理のなさ、屈託のなさはやや拍子抜けしてしまうほどのものだ。
とはいえ、この「少女ロイド」の世界には、単なる絵空事ではない切実さがあるように思えてならない。「2XXX年、人類は緩やかに滅んでいった。人類の現象に伴い、学校や社会は機能しなくなった」という彼女たちが考えた舞台設定が、この国では決して現実からかけ離れたものではないことを、彼女たちもわれわれ観客も身に染みて実感しているからだろう。この二人のコラボレーション、一回で終わらせるのはもったいない気がする。「少女ロイド」の続編でも、新作でもいいから、あと何回か続けていってほしいものだ。

2013/04/25(木)(飯沢耕太郎)

富山妙子「現代への黙示──9.11と3.11」

会期:2013/04/11~2013/05/19

東京アートミュージアム[東京都]

富山さんの文章は読んだことあるけど、作品をまとめて見るのはこれが初めてのこと。もう90歳を超えているんですね。炭坑問題をはじめ、従軍慰安婦、戦争責任、9.11同時多発テロ、そして3.11大震災による原発事故まで、一貫して社会問題をテーマに描いてきた。「蛭子と傀儡子・旅芸人の物語」シリーズは、9.11に端を発する戦争と劇場型社会を批判した油彩やコラージュ。とくに油彩は魚やクラゲの漂う海中のイメージで、そこにエビスさまや中国の仮面などが顔をのぞかせなんとも不気味。ちょっとジブリのアニメを思わせるシュールな世界だ。「現代の黙示・震災と原発」シリーズは3.11以降の騒動を表わしたもの。ここでは風神雷神やIC回路を比喩的に用いるほか、上半分が吹き飛んだ原子炉建屋をキーファーばりに描いた油彩もある。ほかにもチリの軍事クーデターや光州事件を扱ったシリーズも出ていたが、年代が近いのか山下菊二の「ルポルタージュ絵画」を彷彿させる作品もあった。もともとシュルレアリスムの影響が強いようだが、それを社会的テーマに結びつけることで独自のスタイルを生み出したのだろう。いま見れば、キッチュでアナクロなその画風がとても新鮮に映る。それにしてもコンクリート打ちっぱなしのこの「アートミュージアム」、こうした作品展示にはまったくふさわしくない。

2013/04/26(金)(村田真)

「From Postwar to Postmodern, Art in Japan 1945-1989」出版記念イベント

会期:2013/04/26

国際交流基金JFICホール[さくら][東京都]

筆者も戦後日本住宅論のエッセイを寄稿した戦後日本美術史のアンソロジーである「From Postwar to Postmodern, Art in Japan 1945-1989」の出版記念イベントが開催され、1960年代のセッションにおいて、磯崎新とともに参加した。ここではネオダダ、学生運動、メタボリズムなど、都市に出ていくラディカリズムの時代がテーマになる。その後は李禹煥の興味深い回想、今年のヴェネチア・ビエンナーレ日本館の構想に関するトークなどが続く。筆者はコミッショナーを決める委員会のメンバーでもあり、決める側だったが、田中功起の展示がさらに楽しみになった。それにしても、こうしたアンソロジーが日本よりも先に海外で刊行されてしまうのは、どうしてなのだろう。

2013/04/26(金)(五十嵐太郎)

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