artscapeレビュー
2013年05月15日号のレビュー/プレビュー
「貴婦人と一角獣」展
会期:2013/04/24~2013/07/15
国立新美術館[東京都]
カルチエラタンの一角を占めるクリュニー中世美術館は、パリのど真ん中にもかかわらず外界から遮断され、千年ほど時計を巻き戻したような閑静なたたずまいが気分いいので、中世美術にはあまり関心はないけど2.3回訪れたことがある。そこの至宝ともいうべきタピスリー《貴婦人と一角獣》がやってきた。パリではぼんやりながめるだけだったが、今回初めて解説を読みながらじっくり見ることができていろんな発見があった。まずこのタピスリー、6点からなる連作で、うち5面が「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」の5感を表わし、残る1面が「我が唯一の望み」と呼ばれている。なぜ5感を表わしていることがわかるのかといえば、たとえば鏡(視覚)とかオルガン(聴覚)とか、各面に5感のひとつを表わすモチーフが織り込まれているからだ(「我が唯一の望み」はその言葉が編み込まれており、5感とは峻別される)。で、感心したのは、各面ともそれぞれの感覚を強調するかのようにモチーフが繰り返されていること。「視覚」は貴婦人が差し出した鏡に一角獣の姿が映し出されているのだが、その周囲にいるウサギと犬たちも見つめ合うことで鏡の性質を強調しているし、「聴覚」は貴婦人の奏でるオルガンの音に一角獣と獅子が聞き入っているが、そのオルガンの上に小さな一角獣と獅子の像をのせて繰り返している。「嗅覚」は貴婦人が花冠づくりを、「味覚」は貴婦人が砂糖菓子をオウムにやろうとしているが、どちらもかたわらにいるサルがその真似をすることでモチーフを増幅させている。「触覚」は貴婦人が左手で一角獣の角を触っているが、右手は角とアナロジカルな旗のポールを握りしめているのだ。このようなモチーフの繰り返しやアナロジー表現は近代以前には珍しいことではなかったが、いまあらためて目の当たりにするととても新しく感じる。展示は巨大なギャラリーの中央部に大きなホールを設け、6面のタピスリーをゆったりと飾っている。閉館後、ここをパーティー会場に貸し出したら儲かるだろうに。
2013/04/29(月)(村田真)
レ・ジラフ「キリンたちのオペレッタ」
会期:2013/04/29
六本木ヒルズアリーナ+けやき坂[東京都]
午後うちのムスコがけやき坂の路上に落書きした後、麻布十番で食事してたら開演時間がすぎてしまったので戻ってみると、すでに高さ8メートルの赤いキリンが9頭、けやき坂の落書きの上を練り歩いていた。ほかに歌姫やサーカス団の団長などが歌ったり叫んだりしているが、そんなのはどうでもよくて、目はキリンに釘づけ。胴体の前後にふたり入り、竹馬みたいな高い脚に乗って動かしているのだが、プロポーションもバランスも悪いのにカッコいいのだ。長ーい首は前の人が操作するのだが、その手が丸見え。胴体を支える支柱も丸見え。なのに違和感がない。必要なものは無理に隠そうとせず堂々と表に出す。アートはこうでなくちゃ。しかし既視感を抱いたのも事実で、横浜の「開国博Y150」のとき登場した機械仕掛けの巨大クモとよく似ているのだ。巨大クモはラ・マシン、キリンはカンパニーオフと製作者は違うけど、どちらもフランス製。さすが、納得。
2013/04/29(月)(村田真)
女川、牡鹿半島ほか
[宮城県]
女川の坂茂による仮設住宅、牡鹿半島のアトリエ・ワンによるコアハウス(将来の増築をみすえた木造最小限住宅のモデル)、再開した石ノ森萬画館、大西麻貴による東松島のみんなの家(童話的な外観とスケールの操作が興味深い)、MITが関わったババドール五丁目、宮戸のSANAAによるみんなの家(幾何学的な操作によるデザインが美しい)などを訪れた。南三陸町、陸前高田、石巻など、震災遺構の見物も含めて人でにぎわう被災地がある一方、野蒜のように、ほとんど忘れ去られている被災地がある。
写真:左上=坂茂《女川町コンテナ仮設住宅》、左中上=アトリエ・ワン《コアハウス》、左中下=MIT JAPAN《バーバドール五丁目》、左下=大西麻貴《東松島こどものみんなの家》、右上=女川の被災建物、右中上=《石ノ森萬画館》、右中下=SANAA《みんなの家》、右下=野蒜
2013/04/29(月)(五十嵐太郎)
七ヶ浜町遠山保育所
[宮城県]
3.11以降の被災地における公共建築のコンペで最初に竣工し、すでに使われ始めた、高橋一平による七ヶ浜の保育所を訪れる。自然をとり込む矩形の中庭という建築的なアイデンティティを維持しつつ、ワークショップや諸条件から外の輪郭や部屋の配置を決めていく。それによって背の低い回廊に、さまざまな場や空間をつくる。銀色のステンレスシートの外壁に一瞬驚くが、まわりの風景を写し、溶け込んでいた。
2013/04/29(月)(五十嵐太郎)
山形県寒河江市
[山形県]
仙台から山形に向かい、寒河江へ。黒川紀章の初期の傑作、寒河江市役所は、大きく張り出す執務のヴォリュームを4本のコアから吊る、ハイテクのごときダイナミックな構成と、岡本太郎や天童木工がコラボレーションした密度の高い屋内の空間をもつ。メタボリズムの思想を表現しつつ、30代前半でこれを成し遂げたのは見事である。市役所はいまも現役で使われているが、免震工事を行い、将来も残りそうだ。また郷土館では、明治建築の旧西村山郡役所と旧西村山郡会議事堂が移築されている。近代から1960年代まで、地方都市がこれらの前衛的な建築を実現させていたのが興味深い。
写真=黒川紀章《寒河江市庁舎》
2013/04/30(火)(五十嵐太郎)