artscapeレビュー

2016年06月15日号のレビュー/プレビュー

ロバート・モリス&菅木志雄

会期:2016/03/12~2016/05/07

BLUM & POE[東京都]

奥に長いギャラリーの手前に菅木志雄、奥のガラス窓沿いにロバート・モリスのインスタレーションがある。菅は5つの楔形の石のうち4つを矩形に並べ、ひとつをその外側に置き、全体を小さめの木の板で覆った《辺界》という作品。木の板はそれぞれの石に寄り添うように立て掛けられ、またそれぞれの石を関係づけるように配置されている。モリスはL字型にカットした黒いフェルトと鉛の板を無造作に積み上げた作品で、タイトルは文字どおり《鉛とフェルト》。廃棄された工業製品という印象だ。どちらも60-70年代の作品の再制作だが、場所に合わせて変形されている。おもしろいのは、ふたつの作品とも石と木、鉛とフェルトという鉱物素材と生物素材、硬いものと柔らかいものの組み合わせであること。そして菅の石が山を、木の板が平地の田畑を連想させるのに対し、モリスは混沌とした森を連想させる。どこまで意図したかは知らないけれど、図らずもふたりの作品から日本的なものと西洋的なもの、自然と人工の対比が浮かび上がる。

2016/05/07(土)(村田真)

村上華子「ANTICAMERA(OF THE EYE)」

会期:2016/04/09~2016/05/07

タカ・イシイギャラリー東京[東京都]

およそ1世紀前の最初期のカラー写真「オートクローム」の未使用の乾板を現像して引き延ばした作品が並ぶ。全体に濃い青紫色で、周囲は褐色に縁どられ、ところどころ内側に滲み出すように触手が伸び、その先に小さな円形の島ができている。枠を意識したマーク・ロスコの絵画を思い出す。目を近づけると赤、青、緑の微粒子が見え、そのまま離れていくと今度は点や円が星や星雲のように感じられ、まるで電子望遠鏡で捉えた天体写真を見ているよう。ここで過去が現在に接合され、ミクロコスモスとマクロコスモスがワープしてつながるのだ。もうひとつ《APPRITION(OF THE SUN)》という作品は、ネットから拾った太陽の画像をダゲレオタイプで焼きつけたもの。ダゲレオタイプが流通していた19世紀には知り得なかった黒点やフレアまで写り込んでいて、これも過去と現在の出会いと言っていい。

2016/05/07(土)(村田真)

蜷川実花「ファッション・エクスクルーシヴ」

会期:2016/04/23~2016/05/08

表参道ヒルズ スペースオー[東京都]

東京・原宿の表参道ヒルズ開業10周年記念展として開催された、蜷川実花「ファッション・エクスクルーシヴ」展に向かう階段の上から会場を見渡した時、空気がどよめいているように感じた。蜷川独特の浮遊する原色の塊が、強烈なエネルギーを放射しており、それが周囲の環境にまで影響を及ぼしている気がしたのだ。近頃あまりお目にかかれない、会場全体をある種のワクワク感が包み込んでいるような展示だった。
主に天井から吊り下げられた、広告・ファッション写真85点を見ていると、蜷川が2000年代以降の時代のテイストを汲み取りつつ、じつに的確にヴィジュアル化し、撒き散らしていったことがよくわかる。広告・ファッション写真が果たすべき役割は、もちろん企業イメージを視覚的情報として打ち出していくことだが、それは同時に「時代の鏡」に磨きをかけていくことでもある。2000年代の日本のヴィジュアルはまさに「蜷川実花の時代」であったと断言してもいいだろう。
いつも不思議に思うのは、蜷川が「アート」としての側面を強調した写真を発表する時、広告・ファッション写真から発する輝きやオーラが、薄まり、弱まってしまうように感じることだ。天性のヴィヴィッドな色彩感覚や、ひとつの場面を細部まで緊密に気を配って(とはいえその場の臨場感は保ちながら)組み上げていく能力の高さは、むしろ「アート」作品にこそ活かされるべきではないかと思う。むろん蜷川本人は、そのあたりのことはとっくの昔に承知していて、世界戦略のなかに組み込んでいるかもしれない。

2016/05/08(日)(飯沢耕太郎)

全国小津安二郎ネットワーク総会 基調講演「建築からみる小津安二郎~開口部を通じて他の映画と比較する」

会期:2016/05/08

江東区古石場文化センター[東京都]

全国小津安二郎ネットワークの総会において、基調講演「建築からみる小津安二郎~開口部を通じて他の映画と比較する」を行なう。小津ファンが集まる場なので、3日間に10本近く立て続けに彼の映画を再見した。空間論に関する新しい気づきもあったが、改めて彼の作品群における人物の入れ替え可能性、欠損家族ゆえに女性が交換される物語の構造が強く感じられる。総会では、NHKの「美の壺」の取材が入り、また『お早よう』で子役だった音楽家・設楽幸嗣と当時助監督を務めた田中康義のトークも行なわれた。撮影時以来の対面なので、なんと約60年ぶり! らしい。貴重なエピソードやセットに使われたマグカップが披露された。ところで、会場の江東区古石場文化センターは、小津が江東区に生まれ育ったことから、彼や地域ゆかりの映画の常設展示がある。また下部に図書館や会議室を含む公共施設が入り、上部が都の賃貸集合住宅という官民の複合施設の走りだった。

写真:上=セットに使われたマグカップ 下=江東区古石場文化センター

2016/05/08(日)(五十嵐太郎)

ローラン・ネイ氏 特別講義

会期:2016/05/09

東北大学青葉山キャンパス カタール・サイエンスキャンパスホール[宮城県]

東北大学の青葉山キャンパスのカタール・サイエンスキャンパスホールにて、ベルギーの構造デザイナーのローラン・ネイの講義が行なわれた。橋梁などの土木や建築のプロジェクトを合理的なアプローチで解く手つきの鮮やかなことに感心させられた。いわゆる明快に説明可能なデザインである。なお、長崎の出島、熊本の海辺、札幌の路面電車停留所など、日本でもプロジェクトを行ない、こちらはコミュニティ・デザイン的な取組みも報告された。

2016/05/09(月)(五十嵐太郎)

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