2018年06月15日号
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artscapeレビュー

莫毅「因獣」

2012年11月15日号

会期:2012/09/28~2012/10/28

MEM[東京都]

1958年生まれの莫毅(モイ)は中国現代写真を代現する作家のひとりだが、これまでほとんど日本では紹介されてこなかった。榮榮(ロンロン)や劉錚(リウジョン)が、北京で手づくりのコピー写真誌『NEW PHOTO(新攝影)』を刊行して、先鋭的な写真表現の狼煙を上げるのは1990年代後半だが、莫毅は1980年代から、彼らから距離をとりつつ独自の作風を育て上げていった。チベット出身の彼にとって、北京や天津などの都市の生活は、大きな刺激を与えられるとともに違和感を覚えるものであったはずだ。主に都市の路上で撮影されてきた彼のスナップショットには、彼の心身に刻み込まれたその軋轢や軋みが、色濃く滲み出ているように見える。
今回展示されたのは、毛沢東の銅像とそこに写っている自分の影を撮影した1986年の作品から撮り続けられているセルフポートレート、路上を行き交う人々の脚や自転車のスポークなどを野良犬の目の高さから撮影した「舞踏的街道」、首の後ろに据え付けたカメラで1メートル後ろの人物たち(公安警察官を含む)を撮影した「1米─我身后的風景」、多重露光やピンぼけの画像で揺れ動く都市の光景を捉えた「我虚幻的城市」などのシリーズである。いずれも自分の身体とカメラを都市の路上にさらし、文字通り体を張って撮影を続けつつ、哲学的とも言える深い思考にまで達した写真群と言えるだろう。それらはまた結果的に、1989年の天安門事件を経て、激しく流動してきた中国社会を、あくまでも個人的な視点から読み解いたユニークな報告でもある。今回はまだ「紹介」といった趣の個展だったが、もう一回り大きなスケールの展示をぜひ見てみたいと思う。

2012/03/05(月)(飯沢耕太郎)

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