2024年03月01日号
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artscapeレビュー

柿沼康二 書の道「ぱーっ」

2014年02月15日号

会期:2013/11/23~2014/03/02

金沢21世紀美術館[石川県]

昨晩中に金沢での用事を済ませ、今日は余裕で美術館へ。最近、同館では工芸とか書といったマージナルなジャンルの展覧会をやるようになった。現代美術もある意味マージナルな位置に立ってるので重なる部分もあるのだろう。ただし工芸や書の場合、否応なく伝統的な形式を引きずっているため、いくら現代美術に接近しても完全に融合できるわけではない。むしろどれだけ摩擦を生じさせるか、議論を深められるかが重要だと思う。柿沼の書は、幅5メートルを超す大作やアルファベット表記など、明らかに「書」の常識を超えている。大作では作者は紙の上に立ち、墨をたっぷり含ませた巨大な筆を力まかせに振り回すように書いていく。そのため墨のしぶきが飛び散り、ところどころ紙が破れ、ときに手足の跡が残り、しかもなにが書いてあるのか判読しがたい。これは書というよりアクション・ペインティングに近いのではないか。でも紙を水平に寝かせて筆に黒い墨(朱もある)を含ませて文字を書く、という点では書の範疇を超えてない。書としても絵画としても斬新さを評価できるかもしれないが、逆に書としても絵画としても半端さを指摘できる。このどっちつかずのコウモリ感。もともと漢字は象形文字から来ているので,アルファベットのカリグラフィより絵画形式になじみやすいのは事実だろう。なつかしい言葉でいえば、シニフィアンとシニフィエが一致している。だいたい「山」と書いて《山》と題するように、書かれた文字がそのままタイトルになっているから過不足がない。困るのは英語表記で、展覧会名にもなった「ぱーっ」は「PA-」、「一」は「ONE」に訳されているため齟齬が生じている。うーん、書というのも奥が深い。

2014/01/30(木)(村田真)

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